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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
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第35章:姉妹の絆

【SIDE:志水亜美】


「ねぇ、亜美ママ~、できた?」

 

「まだ、もう少しで完成だよ。この可愛い耳をつければ……よしっ」

 

 私は夕食の煮込み料理が出来るまでの間、縫い物をしながら待っていた。

 いつものように麻尋ちゃんを保育園から迎えにきてから夕食づくり。

 ただいま挑戦中なのはクマのぬいぐるみ作りだ。

 手芸セットを使い、慣れた手つきでぬいぐるみを作成中。

 小さな頃から自分でぬいぐるみとか作ってたので、結構簡単にできるの。

 麻尋ちゃんが欲しがるので、新しく作り始めたんだ。

 私が最後の仕上げを終えて、そのぬいぐるみを完成させる。

 

「はい、できあがり。どうぞ、麻尋ちゃん。リクエストのくまさんだよ」

 

「うわぁっ、可愛いっ!!クマさんだぁっ」

 

 出来上がりたてのクマのぬいぐるみを抱きながらはしゃぐ麻尋ちゃん。

 彼女のために作ったので喜んでくれるのは素直に嬉しい。

 

「あのね、亜美ママ。名前をつけてもいい?」

 

「いいよ。何て名前にするの?」

 

「まーちゃん!」

 

「まーちゃん?クマだから?」

 

 彼女は頷いて「まーちゃん」とぬいぐるみに囁く。

 うーん、普通なら、くーちゃんだと思うんだけど。

 本人が気に言ってる呼び名なら別に何でもいいんだけどね。

 その時、携帯電話がかかってきたので、そちらをとると相手は和輝さんだ。

 

「どうしたんですか、和輝さん?」

 

『亜美ちゃん。お願いというか、急だけど3日ほど出張することになったんだ。これからすぐに帰って荷物だけとって、関西へいかなきゃならない。悪いんだけどまた麻尋の事を頼めないかな?大学もあるし、無理を言ってるのは分かるんだけど、お願いしたい』

 

「かまいませんよ。そんな事で遠慮しないでください。私も麻尋ちゃんの家族です」

 

 最近はその事に自信を持って言えるようになってきたと思う。

 私も麻尋ちゃんの家族で、大切な子供だって思えるようになった。

 

「荷物の方は準備しておきます。食事はします……?」

 

『ごめん。そっちは無理そう。すぐに出なきゃいけないんだ』

 

「だったら、使い捨てのお弁当箱に適当にお弁当を作っておきますね」

 

『そうしてくれると助かる。本当に亜美ちゃんには迷惑ばかりかけてるな』

 

 私が和輝さんのお世話をする事は私にとっての日常だ。

 今さらそれが迷惑だなんて思っていないの。

 私はすぐに出張の準備とお弁当づくり開始。

 夕食のおかずをお弁当箱に詰めて完成。

 そうしているうちに和輝さんが帰宅して、荷物を持って慌ただしく出て行く。

 

「和輝さん。くれぐれも、気をつけていってきてください」

 

「あぁ、それじゃ、麻尋を頼むよ。麻尋、行ってくるな」

 

「……うんっ!いってらっしゃい、パパ」

 

 麻尋ちゃんと一緒に見送りながら彼はそのまま出張に出かけてしまう。

 

「和輝さん、お仕事が大変そうだねぇ。麻尋ちゃん、今日からまたちょっとの間だけ一緒に暮らそうね」

 

 とはっても、今と何も変わらない、今の状況で麻尋ちゃんに会えない時間は朝昼ぐらいだもの。

 夜はほとんどと言っていいくらいにこの家にいるから、半同棲と言ってもいい。

 

「……そうだ、実家に連絡しておかないと」

 

 私は自宅の電話番号にかけると兄さんがでる。

 

『ん?どうした、亜美。何かあったのか?』

 

「ちょっとした事情で3日ぐらい自宅に帰らないから。以上」

 

『また和輝の家かよ。別にかまわんが着替えくらいあるのか?大学の準備は?』

 

「こちらにも着替えは常備してるし、大学はノートがあれば大丈夫。必要なら取りにかえるもの。それじゃ……」

 

 私は電話を切ろうとすると、兄さんはふと思い出したように。

 

『そうだ、言い忘れてた。奈々子の件は考えてくれたか?』

 

「……何の話か分からない?」

 

『奈々子にまた会いに来てくれるかってやつだよ。心の準備ができてからでいい。奈々子と話をしてあげてくれ』

 

 電話越しに彼は真面目な声で言う。

 奈々子さんの事、私はまだ避け続けている。

 病院は退院しても、体調不良は続いてるみたいだ。

 

「……奈々子さん、か」

 

 いつかはちゃんと話さないといけない。

 分かってはいても、前に進めずにいる。

 怖いんだ、すべての真実を知るという事が……。

 

「ねぇ、亜美ママ?ママのこと、嫌い?」

 

「……え?」

 

 電話を終えたあと、いつのまにか、私の横にいた麻尋ちゃん。

 彼女は小さな手で私の手を掴みながらもう一度言うんだ。

 

「ママのこと、嫌い?」

 

「奈々子さんのこと……嫌いとかじゃなくて、何て言えばいいんだろ。その、今は喧嘩中なんだ。だから……嫌いとかじゃないよ。子供のころはすごくお世話になって、お姉ちゃんみたいに思っていたの。今はまだ会えないけど、いつかはちゃんと会いたいと思ってるよ」

 

「ホントに?だったら、仲直りってできる?ケンカしたら仲直りしなさいって、ほいくえんのせんせーが言ってたの」

 

 仲直り、その表現は私たちに当てはまるかどうかは別としても、分かりあう事はしなければならないと感じている。

 逃げ続けても、嫌な事から目をふさいだことくらいにしか意味はないから。

 

「ママがずいぶんまえに言ってたよ。私にはだいじな妹がいるんだって。それって、亜美ママのことだよね?」

 

「そうね。奈々子さんは私にとって本当のお姉ちゃんみたいな人だったもの」

 

 思い出せばすぐ隣にいたのは和輝さんと亮太兄さん、そして、奈々子さんだ。

 大事な人たちに囲まれて愛されてきた。

 それゆえに、私は今の自分がとても悲しい。

 大好きな人を嫌いになることの苦しさと寂しさ。

 それを知りながらもやめられない、私の弱さ。

 全ては過去の事なのに、受け止めきれないの――。

 

「わたしは亜美ママが大好きなの。だからね、ママとも仲直りしてほしいなぁ」

 

 麻尋ちゃんにそこまで言われたら断る事なんてできない。

 私は静かに「そうだね」と頷いていた。

 彼女をお風呂に入れてからベッドに寝かしつけた。

 今日はこのまま、私も麻尋ちゃんと一緒に寝る予定。

 大学の準備だけ事前にしておいて、あとはどうにかなるだろう。

 私は携帯電話を見つめながら考える。

 

「奈々子さんと仲直り、無理じゃないのかな」

 

 彼女に会えばまた何かひどい事を言ってしまいそうで。

 でも、会わなければ何も事態は進展なんてしないんだ。

 私は勇気を出して登録してある番号を呼び出す。

 

『高梨奈々子』

 

 その名前を見るだけで私の胸は痛む……。

 

「逃げちゃダメ。私はもう逃げたりしないって決めたの」

 

 そして、ゆっくりと私はその番号を押した。

 数回のコール音のあと、慌てた様子の奈々子さんが電話に出る。

 

『は、はい。亜美よね?連絡くれたんだ……ありがとう』

 

「……どうしても話したい事があります。明日の夜、和輝さんの家に来てください」

 

 私は真実を知り、奈々子さんを許すことができるのかな。

 不安と期待の入り混じる運命の日が近づいていた。

 

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