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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
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第33章:向き合う心《前編》

【SIDE:志水亜美】


 奈々子さんが入院している病院まで来たのはいいけれど、最後の一歩が踏み出せない。

 私は病室前に立ち止まりながら、動けずにいた。

 

「おい、ここまできてそれはないだろ?」

 

「私は兄さんみたいに何も考えずにいられる人間じゃないの」

 

「人を能天気男みたいに言うな。僕は表に出さないだけだぞ?」

 

「何も考えていないの間違いでしょ」

 

 私はじっと立ちつくすこ」としかできない。

 だって、奈々子さんに会ってもどうすればいいか分からないもの。

 また文句ばかり言ってしまいそうな気がする。

 

「今回、倒れたのって原因は私?」

 

「さぁ?お前との亀裂もそうだろうが、他にもありそうだがな」

 

「……私は謝るつもりないからね」

 

 私が言った言葉は全て間違いじゃない。

 奈々子さんの事を責めたのは当然のことだ。

 だけど、私がそこまで言わなくてもよかった事もある。

 

「最近、知った事だがお前って案外、我が強いタイプなんだ」

 

「別に……。私でも許せない事もあるってだけ」

 

「そう言う事にしておくか。さて、僕は先に入るぞ」

 

「お好きにどうぞ。私は気が向いたら入るわ」

 

 兄さんは私の方をちらっと見ただけで何も言わずに室内に入る。

 室内での話し声、どうやら奈々子さんは起きているみたい。

 中には和輝さんもいる様子、兄さんは彼から連絡を受けたらしい。

 

「繋がりか……」

 

 私と和輝さんの繋がりは幼馴染であり、友人の妹であり、恋人でもある。

 けれど、奈々子さんとは未だに強い繋がりがある気がするの。

 離婚したんだから、もっと険悪な雰囲気でいて欲しかった。

 中途半端に前のような幼馴染の関係に戻れている。

 兄さんもそうだ、以前交際していたなんて全く気付かない修復ぶり。

 そのせいで余計に私はショックだった。

 この3人の関係は……普通じゃないと思うのは私だけ?

 

「普通なら壊れて当然の絆。それでも繋がりあうのはそれだけ強いってこと?」

 

 私にはそれが羨ましいと思う。

 私にはそんな強さなんてないもの。

 今もそうだ、ひとつの争いでこれまで繋げてきたたくさんの物を失いかけている。

 壊れてしまうんだ、普通なら。

 それなのに、彼らの関係はギリギリのところで繋ぎとめあっている。

 

「奈々子さんと仲良くなりたい、そんな事は今は思えない」

 

 私の感情で言うのならば、彼女をまだ許せる気持ちはほとんどない。

 色々と彼女がした事は最低で、それを全部、許してしまう気持ちにはなれない。

 人の生き方に文句を言うつもりはない。

 奈々子さんが選んだ人生、それを責める資格は私にはない。

 だけど、彼女がした事で多くの人間が苦しんでいるのも事実。

 

「……このまま帰ってしまいたい」

 

 そんな気持ちの揺れる時間が続く。

 結局、私会うだけ会おうと思い室内に入ることにした。

 このままジッとしているだけの行為に意味はないから。

 

「大丈夫ですか、奈々子さん」

 

 病室にいた奈々子さんは倒れたというだけあって顔色も悪い。

 和輝さんと視線が合うけど、私はすぐに逸らした。

 言い争いをしてしまった彼と面と向かえるほど、心構えはできていない。

 

「亜美……来てくれたんだ。ありがとう」

 

「別に。来ただけです、大丈夫そうならすぐに帰りますね」

 

「顔を見せに来てくれただけでも嬉しいわ、亜美」

 

 奈々子さんは弱々しくも笑顔で答える。

 私に笑みを向ける意味が分からない。

 私には笑う理由などないのだから。

 

「可愛くねぇ。ったく、うちの妹はいつからそんなひねくれ者になったんだ?」

 

「兄さんにとやかく言われる筋合いはない」

 

「そーいう態度とるなって。病人相手にムキになってどうするよ」

 

「……帰ります」

 

 私はそれだけ告げて部屋から出て行こうとする。

 やっぱり、今の私じゃ話すらできない。

 去り際に奈々子さんは一言だけ。

 

「亜美。貴方は優しいわね。……また今度、話しましょう。私はもう逃げたりしない。だから、貴方が会いたいと思えたら連絡してほしいの。その時が来てほしいと願ってる」

 

「……自分の都合ばかり押し付けないでください。私はまだ貴方を許していません」

 

「うん、分かってる。亜美の怒りも全部、私が悪いもの。でも、自分勝手かもしれないけれど、亜美とは元のように姉妹みたいに戻りたいの。それも叶わぬ夢なのかな?」

 

 私はそれ以上、その場にいられずに部屋を出て行く。

 会いたくなる日なんてきっと来ないよ。

 顔を見るだけでもこんなにも苦しくなるんだから。

 

「……会いになんてこなければよかった」

 

「奈々子にとってはキミが会いに来てくれた事は救いになってるよ」

 

「え?和輝さん?」

 

 私の後ろをついてきたのは和輝さんだった。

 私はすぐに俯き加減になって、顔を見ないようにする。

 

「ごめんね、亜美ちゃん。この間はキミを傷つける事をしてしまった。反省している。あの時、俺がすべき行動は他にあった」

 

「和輝さんは……いえ、もういいんです。どうせ、私なんて……」

 

 彼を前にしたら、言いたい事が思い浮かばない。

 言いたいことがあったはずなのに。

 

「俺はどうすればいい?キミはどうしたい?」

 

「それは私たちの関係のことですか?」

 

「そうだ。俺は亜美ちゃんが好きな気持ちに変わりはない。けれど、キミの心が変わってしまったのなら……そのことも、話そうと思っていたんだ。俺のこと、麻尋のこと……キミへの負担になってたのかな。俺は亜美ちゃんの優しさに甘えていたからさ」

 

 関係を終わらせることも必要になる。

 ……恋人関係を破局させる?

 それは嫌だと私はすぐに態度に表せる。

 私はそこが病院だという事も忘れ、彼の服を掴みながら震える声で叫ぶ。

 

「い、嫌です。別れるのは絶対に嫌なんです!和輝さんと別れたくありませんっ」

 

 私がようやく手に入れた幸せ。

 初恋の想いを捨てることなんてできない。

 喧嘩してしまっても大好きな人には変わりないの。

 

「ごめん、落ち着いて。大丈夫だよ。俺は別れを告げるとかそんなつもりはないから。ここじゃ、人目もあるし、ちゃんとした話もできない。少しだけ歩こうか」

 

 彼の誘いを受けて、私達は病院から近くの公園へと移動する。

 すっかりと暗闇が支配する夜空になっていた。

 

「ようやく秋らしくなってきたかな」

 

「……そうですね」

 

 涼しい風に髪がなびく、そっと髪を押さえながら私はベンチに座る。

 

「亜美ちゃん。キミの事を悲しませて本当にすまないと思ってる。俺達の過去の出来事、それに巻き込む形になった事も……」

 

「私は奈々子さんを許せません。それだけです」

 

「奈々子だけが悪いんじゃない。俺達も悪いんだよ」

 

 また、奈々子さん擁護の態度……兄さんと同じだ。

 その辺がよく分からないんだよね。

 何で、兄さんも和輝さんも奈々子さんを擁護するの?

 結局、全部、奈々子さんのせいなのに。

 

「彼女は自分勝手で、その自分勝手さが皆を苦しめてる。それだけじゃありません。奈々子さんは……奈々子さんは……」

 

 私はそれ以上先は言葉がつまり、言えずにいた。

 彼の前で奈々子さんを責めても意味がないもの。

 

「それよりも……麻尋ちゃんは元気にしてますか?」

 

 私が言ってはいけない言葉を放ち、傷つけてしまった。

 今も彼女の泣き顔がものすごく心が痛むの。

 

「元気ではないかな。麻尋はずっと亜美ちゃんが帰って来るのを待っている。麻尋は亜美ちゃんの事が大好きだからさ。今日も亜美ちゃんの絵を描いてたよ。大好きな人の絵だって……。またうちにも来てくれないかな?」

 

「麻尋ちゃんが……?私の事を?」

 

 嫌われてしまったと思っていた。

 だって、私があの子にした事を考えると当然だと思ったもの。

 それが違うんだって言われたら、私はすぐにでも麻尋ちゃんに会いたくなる。

 

「……来てくれないかな?」

 

「今からですか?」

 

「麻尋はまた亜美ちゃんに会えるようになったら喜ぶと思うよ。俺もこれからはキミの事を考えて行動する。亜美ちゃんのことだけを見ているから」

 

 麻尋ちゃんが私を今でも好きと言ってくれている。

 一度は奈々子さんとの間の絆に負けた気がして、彼女を拒んでしまった。

 それでも、私にも絆のようなものがあるとしたら?

 

「私はまだ麻尋ちゃんに会う資格があるんでしょうか?」

 

「キミが会いたいと思うのなら。資格なんて関係ないよ」

 

 和輝さんの言葉が私にとっては救いだった。

 

「……麻尋ちゃん、ご飯はもう食べちゃいました?」

 

「いや、まだだ。これから弁当でも買うつもりだったけど?」

 

「それじゃ、麻尋ちゃんの好きなハンバーグでも作ってあげますね」

 

 私のその言葉に和輝さんは「きっと喜ぶよ」と言って私を抱きしめてくれる。

 私は麻尋ちゃんに会いたい、会って謝りたいんだ。

 そして、私が麻尋ちゃんを愛してるという気持ちを伝えたいの。

 彼女が誰の子供だとか関係ないよ。

 私が好きかどうか、それだけなんだ。

 私は麻尋ちゃんが大好きで、自分の子供のように思っているの。

 謝らなきゃいけない……私の気持ちをあの子に伝えたいの。

 

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