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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
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第25章:望まぬ想い

亜美の視点です。

【SIDE:志水亜美】


 私の人生は当然のことながら私が体験してきたことだけ。

 他人の人生を共有することなんてできない。

 それまでの私は知らなかった、想像すらしていなかった出来事。

 それは奈々子さんが亮太兄さんと交際していた過去があり、現在も交際しているという事実……。

 裏切られた、とかそんな気持ちじゃないけども、何だか嫌な気持ちになる。

 隠され続けた事実、私だけが知らずにいた疎外感。

 それはとてもショックで何とも言えない気持ちになる。

 風邪をひいていた私は何とか一晩で回復した。

 けれど、奈々子さん達の話は全然していない。

 

「おはよう、亜美ちゃん。……風邪は治ったのかな?」

 

 あの雨の日から2日後の朝、私は朝食作りを始めていた。

 そこへ起き上がってきた和輝さん、同棲をして幸せに思える瞬間のひとつ。

 大好きな人と一緒に過ごす朝の光景。

 

「はい、もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

 

「いや……迷惑とかじゃないから。亜美ちゃんが風邪をひいたら俺たちも心配するよ」

 

「麻尋ちゃん、お世話してくれて嬉しかったです。風邪はうつしちゃってませんよね?それだけが心配で……」

  

「大丈夫。麻尋は元気だよ、まだ寝ているけどね」

 

 たった2日、いつも一緒に寝ている麻尋ちゃんがいないのは寂しかった。

 それだけ私の中で麻尋ちゃんは自分の娘のような存在になっているんだ。

 

「亜美ちゃん……。その、奈々子の事なんだけど」

 

 和輝さんが切り出した話題に私は顔を強張らせる。

 その話はしたくもなければ、聞きたくもないのが本音だ。

 

「奈々子は別に悪くない。普通の恋愛だったよ。ちょっと事情が絡んでいるからおかしく思えるかもしれない。それでも、本当におかしな関係ではなかった事だけは言える……」

 

「和輝さん。私はその事を聞きたくないんです」

 

 奈々子さんの話は正直、もういい。

 今は話したくもないことだから。

 

「あのさ、亜美ちゃん。俺たちのことを……」

 

「――もういいって言ってるじゃないですかっ!!」

 

 それでも言葉を続けようとしている和輝さんに私は思わず声を荒げてしまった。

 感情的になってしまう自分にまず驚く。

 私、一体、和輝さん相手に何をしちゃってるのよ。

 すぐに私は和輝さんに謝罪する。

 

「ご、ごめんなさい。和輝さん、私が怒ることじゃないのかもしれません。だけど、嫌なものは嫌なんです。私はその事については何も聞きたくありません。知りたくもない事を無理やり教えられるのはホントに嫌なんです」

 

 和輝さんは首を横に振って言う。

 

「……いや、こちらこそすまなかった。亜美ちゃんが嫌がる事を言ってしまって」

 

「そうだ、もうすぐご飯の支度ができあがりますから、麻尋ちゃんを起こしてきてください。お願いしますね?」

 

「あぁ、そうするよ」

 

 私は話を無理やり変えて雰囲気が悪くなるのを避ける。

 今は奈々子さんにだけは会いたくない。

 私がそんな事を感じてしまうなんて……。

 自分で自分が嫌になる、私はどうすればいいの?

 

「んみゅぅ……おはよー、亜美ママ」

 

 やがて、眠そうな目をこする麻尋ちゃんがやってくる。

 

「おはよう。麻尋ちゃん、顔を洗った?」

 

「うん。あっ、ごはんだぁ。きょうは、たまごやき?」

 

「そうだよ。麻尋ちゃんが好きな甘いの焼いてるからね」

 

「んにゃー。あまいの大好きなのっ」

 

 彼女の笑顔を見ていると心が和む。

 すぐに幸せな気持ちになれるの。

 その様子を後ろで見ている和輝さんに私は声をかける。

 先ほどの嫌な雰囲気を消したくて、出来る限り自然な口調で、

 

「和輝さん……お箸とお皿を準備してもらえますか?」

 

「え?あ、あぁ。すぐに準備するよ」

 

「わたしもする~っ。これが亜美ママのおはしで、こっちがパパの。これがわたしのおはしーっ。にほん、いっしょじゃなきゃダメなんだよ、パパ」

 

「そうだな。一本じゃお箸は使えないからな。麻尋、これを並べてくれ」

  

 椅子に乗りながら、お箸をテーブルにセッティングする麻尋ちゃん。

 

「はい、できました。まずは麻尋ちゃんからだよ」

 

 今日のメニューは和風メニュー、焼き魚と卵焼き、それにお味噌汁。

 麻尋ちゃんは骨抜きしてあるお魚が好きでよく食べてくれる。

 私の子供の頃、お魚嫌いで親をよく困らしていたのに偉いわ。

 

「それじゃ、いただきます~っ」

 

 元気よく挨拶してご飯を食べる麻尋ちゃん。

 ホントに可愛らしい子だなぁ……私は幸福を感じながら椅子に座った。

 


 

 

「……で、何で亮太兄さんが私を呼び出すわけ?」

 数時間後、いきなり亮太兄さんに呼び出された私は自宅に帰っていた。

 和輝さんはお仕事、麻尋ちゃんは保育園に預けてある。

 ていうか、うちの兄さんも仕事はどうしたのよ?

 

「今日はお仕事ないの?まさか遅刻しすぎてクビになったとか……」

 

「このご時世のなか、縁起でもない事をいうな。こっちは有給使って長期盆休みなんだ。一週間も休めるなんて素晴らしいな。学生っていうのはホントにいいっていうのを思い出させられた」

 

「そんなどうでもいいことで私を呼んだの?」

 

 私はリビングのソファーに座りながら、コップに入った麦茶を飲みほす。

 すぐに兄さんがボトルからコップへ新しく注ぎ込んでいく。

 

「……別に頼みもしないのにそう言う事をする兄さんに違和感ありすぎ」

 

「お前、しばらく会わないうちに口が悪くなってないか?」

 

「別にーっ。昔から女ったらしのお兄さんには軽蔑していたし、こういう態度だったでしょ。それで今さら私に何の用事?」

 

 子供の頃はそれでも私は兄さんの事が好きだったから甘える素振りを見せていた。

 よく考えると意地悪で女の子にだらしない彼を正当に評価していた自分が恥ずかしい。

 だからこそ、今の私は正しい反応をしているとも言える。

 

「何だか自分の妹に拒絶されることに自業自得という言葉の意味を思い知らされるな。露骨な態度で実兄を軽蔑するな。話があったからここに呼んだ」

 

「どーせ、お盆ぐらいは帰ってくるつもりだったけど。兄さんには会いたくなかった」

 

「本人を目の前にして拒絶するな。本気で傷つくからさ」

 

「ふんっ。どこの心が傷つくの?亮太兄さんに傷つく弱さなんてないでしょう?」

 

「頼むからもう少しだけ僕に優しくしてくれ。こほんっ、話を前に進めたいんだが、いいな?それでだ、その、お前の恋人について質問があるんだが……」

 

 ついに来た、正面からの質問。

 何だかんだで誤魔化し続けているため、私はすぐに嫌な顔をする。

 

「……それよりも政治経済のお話をしましょう?」

 

「僕はそっち系弱いから。政治家とか法律って難しいからさ……って、変な方向に話をそらすな。お前の恋人ってさ……」

 

「そういえば、この前、従姉のお姉さんにあったんだけど、妊娠しているらしいよ。4ヵ月だって」

 

「何っ!?それはどこのおねーさんだ?紗代ちゃんか、それとも未久ちゃんか!?二人とも結婚してるからな……って、だから、話をそらすな。それはそれで大事な話ではあるが」

 

 ちっ、これもダメか……。

 こう言うときの亮太兄さんはしつこいから嫌い。

 私は肩をすくめて、正直に話す覚悟を決めた。

 

「ええいっ、お前さ、付き合ってる相手って和輝なのか!?」

 

「……顔近いからどいて、そろそろヒゲそれば?」

 

「きょ、今日はそり忘れただけだ。仕事の時はいつもそってるっての」

 

 指摘されてヒゲを触る兄さん、だがすぐに本題の話へと戻る。

 

「お前の態度で確信が持てた。ホントなんだな?何でだよ……何でアイツはホントに僕の大事な物を持っていきやがる」

 

 憤る兄さんに私はふとわいた疑問をぶつける。

 

「大事なもの?兄さんにとって私が?嘘でしょ?」

 

「……そ、それはいいんだよ。それよりも、何でお前らが付き合ってるんだ?」

 

「何でって、もう隠す気力がなくなったから喋るけど、偶然あったの。麻尋ちゃん連れの和輝さんと街中で会って、麻尋ちゃんのお世話しているうちにそう言う雰囲気になって付き合う事ができたの。それで何か文句でもあるわけ?」

 

 私がそう言うと彼は非常に複雑そうな顔をする。

 

「そりゃ……文句って言うかさ。ほら、幼馴染同士で色々あるっていうか」

 

「そもそも、そっちだって、奈々子さんと付き合ってるんでしょ。お互い様じゃないっ。いいじゃない、“今”は誰も悲しんでいない。幸せならそれでいいでしょ」

 

 過去の話なんて実際のところは興味がない。

 この3人の間で何が起きていたのかすらも……私はどうせずっと蚊帳の外だったんだ。

 

「そういう言い方はやめろよ。僕だって昨日、お前らの話を知ったばっかりだっての。……この前、お前と会った時から奈々子の様子がずっとおかしい。気になって尋ねても何も答えないし。何とか話を聞きだしたら、お前と和輝が交際しているって聞いてさ。マジで信じられないって、今回はその確認をしたかったんだよ」

 

 ホントに今さら……って感じがする。

 こちらを見つめる兄さんはそわそわした様子、柄にもなく緊張しているのかしら?

 私は彼の鈍さに本気で呆れながら言うの。

 

「和輝さんとはちゃんと交際してる。今、同棲だってしているんだもの。麻尋ちゃんだって私に懐いてくれて幸せな日々を過ごせているの……。それなのに、空気読めない兄さんが私と奈々子さんの関係をぶち壊すことをしたのよ」

 

 そうよ、すべては彼が原因なんだもん。

 亮太兄さんと奈々子さんが一緒にいる光景さえ見なければよかったのに。

 そう思うと私は八つ当たり的な怒りが込み上げてくる。

 

「大体、兄さんがいけないのよっ。奈々子さんと交際し始めたりしなきゃよかったじゃない。最初、中学の時に付き合った時、どうせ浮気絡みでフっておいて、今さら付き合い出すなんて兄さんが悪いに決まってるじゃない」

 

「待てよ、僕じゃない。中2の時に別れを切り出したのは……奈々子の方だ」

 

「……え?それはどういう意味?」

 

 事実と誤解、嘘と真実……。

 慌ただしく情報が交錯する中で私はワケが分からなくなる。

 

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