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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
23/46

第22章:初恋のカケラ《前編》

奈々子視点のお話です。

【SIDE:高梨奈々子】


 すべてが一瞬にして崩れ去る。

 隠し続けていたのは私の汚れた過去。

 亜美にだけは見られたくなった、亜美にだけは知って欲しくなかった。

 彼女をだまし続けて、現実から逃げていた。

 けれど、そんな世界だからこそ終わりは訪れた。

 結果として私は亜美を傷つけてしまったの。

 悔やんでも悔やみきれない、私の責任……。

 私がすべての原因なのよ、悪いのは私。

 初恋を未だに忘れられなかった私が悪いの。

 12年前、14歳の夏は私にとってかけがえのないものだった。

 私には二人の幼馴染の男の子がいた。

 ナンパな性格をした亮太と硬派で恋愛にまるで興味を示さない和輝。

 そして、私にとっては本当の妹同然の存在、亮太の妹である亜美。

 私達は常に傍にいて何をするのも一緒だった。

 中学に入り、亮太には年上の高校生の恋人が出来た。

 それから少しずつお互いに距離が出来始める。

 

「奈々子お姉ちゃん~っ」

 

 まだ小学1年生だった亜美は私にとって大事な妹だ。

 私の実妹は幼少の頃に他界しており、亜美には彼女を重ねていて、よく遊んでいた。

 

「どうしたの、亜美?今日は何かあったの?」

 

「お兄ちゃんがね、また意地悪するのっ!私のぬいぐるみをぽいって放ったの」

 

「……アイツは子供か。で、どこに放り出されたの?」

 

 私は彼女の家の庭へ行くと、木の枝にぬいぐるみが引っかかっている。

 亜美は私にそれをとって欲しいようだが、あいにく、私は木登りできない。

 棒か何かで振り払おうとするけども他の木の枝が邪魔して無理そうだ。

 

「うぅ~っ、えぐっ……」

 

 まずい、亜美が泣きそうになってきている。

 このままいけば絶対に泣く、亮太め、帰ってきたら絶対に潰す。

 私の可愛い亜美にこんなひどい事をするなんて。

 困り果てていたその時、家の前の道を見慣れた男の子が通り過ぎる。

 

「……和輝?ちょっと待って、和輝。こっちに来て!」

 

「ん?何だ、奈々子か。どうした、亮太の家で……?亜美ちゃんも一緒か」

 

 彼は庭へと入るとタイミングがいいとばかりに私は木の枝を指さして説明する。

 

「まったく、亮太もやることが荒い」

 

 すぐに彼は木の枝を登り始めて、やがて、ぬいぐるみをキャッチして木から降りた。

 運動神経もいいから危なげなくみられるわ。

 

「はい、亜美ちゃん。どうぞ」

 

「ありがとう、結城お兄ちゃんっ!」

 

 キラキラと瞳を輝かせて喜ぶ亜美。

 そんな姿が愛らしくて私は彼女を抱きしめる。

 

「あぁっ、もうっ。何て可愛いのかしら。亜美ラブ~っ」

 

「くすぐったいよ、お姉ちゃん」

 

「……ホントに仲がいいな。亮太の妹とは思えないくらい亜美ちゃんは素直な子だし」

 

 和輝は亜美ちゃんに向けてそう言ってほほ笑みかけていた。

 彼は兄妹がいないので私と同じ気持ちを彼女に感じているに違いない。

 

「アレと一緒にしないで。亮太みたいなのになっちゃダメよ、亜美」

 

「お兄ちゃんはダメな人なの?」

 

「世間的にいい人ではないわ。亜美は私みたいな女の子になりなさい」

 

「常識を教える参考書が間違えている場合はどうすればいい……いたっ!?」

 

 余計な一言を言う和輝を小突く。

 

「うっさい、和輝。変なこと言わないでよ、失礼ねぇ」

 

「……亜美ちゃん、こいつみたいにもならない方がいいぞ」

 

 何もかもが平穏だった、私も亜美の関係は姉妹そのもの。

 幼馴染たちとの関係もある程度の距離感を保ち続けていた。

 だけど、そのすべてを壊すきっかけは……亮太の失恋から始まる。

 

 

 

 

 ある日、私は中学校の中庭で帰り際見てはいけない光景を見てしまった。

 

「最低っ!バカ、死んじゃえっ!!別れてやるわ」

 

「いてぇっ!?な、何するんだよ。あ、こらっ」

 

 思いっきり頬を叩かれて間抜けに吹き飛んだのは亮太だ。

 中学に入ってからはナンパな性格になり、付き合う女の子を次々とほぼ季節ごとに変えている。

 女の子の方は怒りをあらわにしたまま、彼を放って中庭から出ていく。

 

「……アンタ、何をしているわけ?」

 

「何もしてねぇよ。僕は今回は無実だ」

 

 そう言いながら赤く腫れた頬を押さえる亮太。

 どうやら私は修羅場の中に入ってきてしまったようだ。

 

「ほら、とりあえずそこに座って。ハンカチ濡らしてきてあげる」

 

「サンキュー……うわっ、めっちゃ痛いな。こりゃ、後に響くね」

 

 私はすぐにハンカチを濡らして彼に手渡す。

 ベンチに座った彼はそれを受け取り、頬を冷やす。

 

「女の子の怒りをなめるな、ということでしょ」

 

「今回はマジで僕は何もしてないんだって。いつもと違う」

 

「……ていうか、あれ、3年生よね?アンタの彼女って高校生じゃなかったの?」

 

「はい?あぁ、それって2ヵ月前の話だろ。あれは複雑な事情が絡んで終わった。で、ひと月前に付き合いはじめたんだが、この前からいきなり僕に浮気している相手がいるんじゃないかって勝手に誤解して今日、こうなりました」

 

 彼は肩をすくめて「僕、何も悪くないだろ?」とため息をついている。

 

「どうせ、亮太が悪いのよ。あっちへ、こっちへいい顔をして。女の子が不安にならないと本気で思ってるわけ?」

 

「……言っておくが遊びで付き合ってるわけじゃないぞ。こうみえても」

 

「ウソツキ。恋の“こ”の字も本気でしたことないくせに」

 

 彼の初恋はあってないようなものなんかじゃないのかしら。

 純愛と言う言葉を知らない。

 人を愛する気持ちを彼はきっと持っていない。

 

「……恋か。僕は恋をしていないってか。キツイねぇ」

 

「――黙れ、この万年発情期ネコ」

 

「それはやめてくれ。僕はいつのまにか子沢山な猫とは違う」

 

「もし、実際にそれしたらアンタを潰すわ……物理的な意味で」

 

 彼は「冗談だ、冗談っ!?」と慌てて否定する。

 一度痛い目に本気であった方がいいと思うの。

 

「中学生なんだから中学生らしい恋愛をしなさい」

 

「……してるつもりですけど?」

 

「どの口がそれを言うか」

 

「幼馴染だろ、信じてくれよ」

 

 彼は痛みが引いて来たのか、ハンカチを頬から離す。

 赤いままだけど、少しは痛みがなくなってきたようだ。

 

「亮太を信じることなんて……きっと誰にもできないわ」

 

「……ひでぇ」

 

「ホントの事だもの。信じてもきっと亮太は平気で裏切るわ」

 

「奈々子……僕と付き合い長いでしょ、そーいうこと、言わんといて。普通に凹むから」

 

 そう言う所が嘘つきなんだ、へこむことなんてないくせに。

 彼が今回の事でもきっと反省すらしないだろう。

 

「……分かった。そこまで言うなら仕方ない。奈々子、付き合ってくれ。一度付き合えば僕のよさがわかるはずだ。……おい、奈々子?どうした、何を固まってる」

 

「最低の冗談……死ね」

 

「いや、言葉は悪いクセに何を照れてる?」

 

 私はきっと顔が赤いに違いない。

 必死に紅潮する顔を手で隠しながら私は言うのだ。

 

「アンタなんか死んでしまえ、発情期ネコ。私を冗談で口説くな」

 

「……え?え?ま、まさか、お前、本気で僕の事?ちょっと待てよ、えぇ?」

 

 彼が驚くのも無理はないかも。

 私だって自分自身、こんなどうしようもない発情期ネコに4歳の頃から初恋を続けている事実をすぐにでも世界から消し去りたいと感じているもの。

 でも……今でも好きなの、亮太の事。

 ホントにどうしようもない、私の初恋……。

 

「こほんっ。あの、奈々子さん?もしかしてマジでした?」

 

「うっさい、死ね。むしろ、殺す」

 

「怖っ!?暴力はやめてくれ。……僕はずっと、奈々子は和輝狙いだと思ってた」

 

「そりゃ、アンタと違って和輝は女の子に優しいし、いい男よね。でも、アレはダメ。人を愛する気持ちがないのは、亮太以上だもの。……なんで、こんなふたりが私の幼馴染なんだろ」

 

 和輝は人に恋をする気がない。

 年頃の男の子のくせに恋愛に興味ゼロ。

 その態度を全面に出されている以上、恋する気持ちは湧いてこない。

 亮太は最低発情期ネコだけど、男としては魅力はある方だ。

 

「……改めて言うわ。死んで」

 

「改めて言うなっ!?そんな事はお願いだから言わないでくれ」

 

「それならどうすればこの汚点をぬぐえるの?亮太みたいな男に恋してた私はバカでしょう?笑いたければ笑えばいい」

 

「笑えるわけないだろ。僕のことだぞ……。とりあえず、落ち着け。えっと、マジで好きなら付き合うか?」

 

「……嫌。アンタみたいなナンパ発情期ネコと付き合ったら泣かされるもの。もう嫌っ。亮太に想いを知られた、恥ずかしさで死んじゃいそう。バカっ!」

 

 私は声を荒げて急いでその場から去りたくなる。

 だけど、そんな私を亮太は抱きしめる形で止めた。

 

「待てよ、奈々子。僕はお世辞にも恋愛は下手だし、ナンパだって自覚もある」

 

「そんでもって、女好きで今すぐにでも腹切って詫びて欲しい女の子の敵よね」

 

「……あのなぁ、真面目な話をしているんだって。自信はない。けどさ、奈々子とならいい関係を築けるんじゃないかって思えるんだ。奈々子って性格キツイけど、可愛いと思うし」

 

 そう言って彼が私を見つめる瞳は、彼らしくない真面目な感じがする。

 

「そうやって、今まで何人も落としてきたんだ」

 

「僕を少しでも信じてくれ。今回は真面目だ。付き合ってみないか?」

 

 亮太は相変わらず信用なんてできない。

 私はきっと彼との恋愛に踏み込めば涙を流す結末になるだろう。

 それでも、私は自分に正直なんだ。

 

「もし、私を泣かせる結末になったら、男じゃなくしてやる」

 

「去勢手術はかんべんな。で、それはオッケーと取っていいわけ?」

 

「……バカっ」

 

 私は気持ちを態度で示す。

 少しだけ背伸びをして彼の唇に私は唇を重ね合わせる。

 初めて男としたファーストキスはロマンスも何もなくて。

 でも、何よりも心が満たされていくものだった。

 中学2年の夏、私と亮太は付き合うことになる。

 このことが私の将来に大きく影響することになるなんてね。

 これは初恋のカケラ。

 忘れたくても忘れられない初恋の思い出――。

 

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