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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
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第16章:優しい初恋の想い出《後編》

【SIDE:志水亜美】


 それはあまりにも突然すぎる出来事。

 お互いに顔を見合せて気まずく沈黙する。

 

「――いや、何ていうか、その、ごめん」

 

「い、いえ、私なんか、が、えっと……はぅ……」

 

「ご、ごめんっ、すぐに出て行くからっ!!」

 

 慌てて脱衣所が飛び出していく結城さん。

 

「うぅ、どうしよう。見られちゃったよ」

 

 お風呂上がりの裸を見られた私はただ顔を赤くさせるしかできなかった。

 一緒に暮らし始めて一週間、ついに恐れてた(?)ハプニングが起きてしまった。

 朝からシャワーを浴びていた私に寝ぼけてトイレと間違えたらしい結城さんが脱衣所にやってきたの。

 一緒に暮らしている以上は予想できた事でもある。

 恥ずかしいけど、それも仕方がないなぁって思ったりして自分を落ち着かせた。

 まだ私と結城さんは深い関係を持っていないし、そういう雰囲気にもならない。

 私は別に今のままで満たされている事もあるんだけど、結城さんはどうなんだろう?

 年頃の男の人だし、その、うぅ……。

 私は余計な事を考えすぎて頭がパニックになっている。

 髪をタオルで拭きながら脱衣所を出ると、今にも土下座しそうな勢いで私に謝る結城さんがいたんだ。

 

「ごめん。ホント悪かったよ、亜美ちゃん」

 

「あ、あの、気にしてませんから。結城さんなら別に見られてもいいっていうか、恋人同士ですし……その、気にしないでくださいね?あ、朝ごはんの用意をします」

 

 何だかこちらが申し訳なくなってしまう。

 

「こらっ、パパ!亜美ママをおこらせちゃ、ダメなのよ」

 

「反省しているよ。麻尋、そろそろ行く準備をしてくれ」

 

 お仕事がある結城さんが出て行ってからは麻尋ちゃんを保育園へと連れて行く。

 仲良くしているお友達がいるらしく、最近はその子達と遊ぶのが楽しいみたい。

 

「それじゃ、またね。バイバイ、ママ」

 

「うん。今日の夕食はカレーにするから楽しみにしていてね」

 

 麻尋ちゃんとも保育園でお別れ、私は繁華街へと出かけることにした。

 今日は友達の美代子と遊ぶ約束をしていた。

 美代子は県外の出身なのでもうすぐ実家に帰ってしまう。

 その前に一度買い物にでも行こうと約束していたの。

 

「はぁい、亜美さん。元気にしている?」

 

「まだ夏休みになって2週間も経っていないじゃない」

 

「それで最後に会ったのが定期テストの後だったから久しぶりじゃない。どう、噂の彼氏との同棲生活を楽しんでいる?」

 

「まぁ、それなりに充実しているわ。その話はまた後でね」

 

 私達は本来の目的であるお店へと行くことにした。

 今日はサマーバーゲンでお気に入りの洋服が安く買えるの。

 

「うーん、これがもうワンサイズ下のがあればいいんだけど」

 

 試着しながら好きな服を選んでいく。

 夏向けの露出が高い洋服、あまり着ないタイプの服も選んでみた。

 

「彼氏さん、年上なんでしょう?」

 

「私とは7歳違いだから結構年上。あんまり気にしていないわ」

 

「憧れの幼馴染かぁ。しかも子連れなんて私には無理ね。亜美さんはよく頑張ってる」

 

「頑張る、という表現をする恋愛はしてないって」

 

 私と結城さんの恋愛は今のところ順調だと思う。

 麻尋ちゃんとの関係も私を「ママ」と呼んでくれるもの。

 

「子供との関係は?ちゃんと付き合えている?」

 

「私のこと、母親のように思ってくれているわ」

 

「……それはまたすごいことで。恋は盲目ってよく言うけど、私は亜美さんみたいにはできないわ。ホント、よくやるわよ」

 

 褒めているようには聞こえない。

 苦笑気味に彼女は私に言いつつ、洋服の精算を終える。

 私も同じように服を買ってお店に出た。

 この後は新しく出来たお店で食事の予定だ。

 

「彼が好きなんだからしょうがない。こればかりはどうしようもないの」

 

「……前の奥さんとはどうなの?知りあいでしょう。あれから会った?」

 

「まだ会えていないの。落ち着いたら会えるって言ってたけど」

 

 奈々子さんとは結城さんとの再会からずっとまだ一度も会えていない。

 どんな顔をして会えばいいんだろうか。

 私はその事に悩み続けている。

 今の私と結城さんの関係を知ったらどうなるのか、それがとても怖いの。

 だけど、逃げないと私は決めている。

 大事な人達から逃げたりしない、その覚悟を持って私は結城さんとの交際の道を選んだ。

 

「話が話だけにデリケートな問題だから焦らない方がいいわよ。無理してこじれても、悲しい結末しか待っていない」

 

「分かってる。ちゃんと話がしたいな。奈々子さんとゆっくりと話がしたい」

 

 蒸し暑い夏の空、私は青い空を仰ぎながらそう呟いた。

 

 

 

 

 夕方になって家のキッチンで麻尋ちゃんと一緒にお料理をしていた。

 本日のメニューはカレー、いつものように彼女がお手伝いしてくれる。

 

「カレー、カレーっ♪からい、カレー」

 

「麻尋ちゃんはカレー大好きだもんね?」

 

「うん。でも、亜美ママのおりょうりはぜんぶ好きだよっ」

 

「ありがとう。次はこのルーをいれるんだよ」

 

 いつも麻尋ちゃんは作りがいがある一言をくれるんだ。

 お料理は好きで楽しくしているけど、やっぱり、美味しいと言う一言が何よりもやる気にいなるもの。

 

「えへへっ。カレーぇ、カレー♪」

 

 鼻歌まじりにお鍋を混ぜる麻尋ちゃん。

 将来はお料理好きな子になるかもしれない。

 

「……お料理、作るの好き?」

 

「好き。だって、亜美ママとおりょうりするのたのしいもんっ」

 

「私もお料理するの好きだよ。麻尋ちゃんが美味しそうに食べてくれるから」

 

 後はしばらくの間、煮込むだけだ。

 出来上がりを待っていると結城さんから連絡が入る。

 

「はい、亜美ですけど結城さん、どうかしましたか?」

 

『亜美ちゃん。今日、これから明々後日まで仕事で出張になっちゃったんだ。一度家に帰るから荷物の用意をしてくれないかな。俺の部屋の奥においていただろう』

 

「分かりました、前に言ってたものですよね。すぐに用意しておきます」

 

 バックの中に衣服とか色々と既に詰めてある準備していた出張セット。

 今までは麻尋ちゃんがいるから中々出来なかった出張も、私と暮らし始めて出来るようになったので、お仕事を頑張って欲しいと思う。

 今が大切な時期だって言っていたもの。

 私はそんな彼を支えてあげたいんだ。

 

『お願いするよ。今からすぐに帰るから』

 

「ご飯はどうします?今日はカレーですからすぐにでも食べれますよ」

 

『それじゃ、夕食は食べていくよ。本当に亜美ちゃんがいてくれて助かるな』

 

「ふふっ。お役に立てて光栄です」

 

 私は結城さんの部屋から用意していたキャリーバッグを取り出した。

 中身の確認、数日分の着替えの準備はOK。

 あとは結城さんが帰ってくるのを待つだけだ。

 しばらくすると急いで結城さんが帰って来る。

 

「ただいま。食事を終わったらすぐに新幹線で出かけなきゃいけない」

 

「準備は出来てます。麻尋ちゃん、夕食だよ」

 

 テレビを見ていた彼女を呼んで夕食を3人で食べる。

 カレーのいい匂い、お手軽に出来る料理だけど私もカレーは好きだ。

 

「出張ってどこに行くんですか?」

 

「あぁ。関西支社に明日から用事で行くことになったんだ。もう、急すぎて大変だよ。色々と問題もあるから頭が痛い。まぁ、これも俺が通したプロジェクトだから責任持ってしないとね。亜美ちゃんのおかげで成功したようなものさ」

 

 私が出会って間もない頃の話だ。

 結城さんのために出来る限りの事をしたい。

 

「パパ、おでかけするの?」

 

「そうだよ。明々後日には帰ってくるから大人しく亜美ちゃんの言う事を聞いて待ってるんだ。ちゃんとお土産を買ってくるから。お菓子でいいか?」

 

「あーいっ。亜美ママといっしょにまってるね」

 

 麻尋ちゃんはホントに聞き分けもよく、出来のいい子だと思うんだ。

 それに今、こうして3人で食事しているだけで私は心が穏やかになる。

 憧れていた結城さんとの家族の形に近づけた気がするの。

 ずっとこのような時間が続いて行けばいいのに。

 夕食を食べ終えた結城さんはシャワーを浴びてからすぐに家を出なくちゃいけない。

 私は玄関まで見送ることにした。

 

「いってきます、亜美ちゃん。戸締りだけは気をつけて」

 

「はい、いってらっしゃいませ。何だか、新婚さんみたいですね」

 

 思わず微笑してしまう、このくすぐったくも心地よい温かさ。

 結城さんも同じような気持ちを抱えてくれていたらいいのに。

 見送りを終えて彼は出張先に行くために駅へと出かけていった。

 留守の間、しっかりとしないといけない。

 私は今日は早めに麻尋ちゃんを寝かしつけて、洗い物をしていた。

 午後8時、玄関からピンポーンという呼び鈴がなる。

 

「……あれ、結城さんかな?忘れ物でもしたのかも」

 

 今頃、新幹線に乗ってるはず、私はすぐに玄関に向かい、その扉を開けた。

 扉の向こうにいたのはセミロングの髪が綺麗な女の人。

 

「――な、奈々子さんっ!?」

 

「――えっ……?亜美よね?どうして、亜美がここにいるの?」

 

 そこにいたのは私の大事な幼馴染のお姉ちゃん、奈々子さんだったんだ。

 お互いに驚きの声をあげて、私達は4年ぶりの再会をすることになる。

 

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