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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
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第14章:想いはどこに?

【SIDE:志水亜美】


 本日は朝から麻尋ちゃんの着替えを準備中。

 

「んしょっ……」

 

 頑張って外行きの洋服に着替える麻尋ちゃん。

 可愛い帽子もかぶれば、愛らしい天使の誕生だ。

 

「んー、麻尋ちゃんラブリーすぎ」

 

「にゃぁ。おねーちゃん、くすぐったいよぉ」

 

 いつものようにその小さな体を抱きよせる。

 

「結城さん、こちらの準備はできましたよ」

 

「分かった。もうすぐ、こっちも終わるから玄関で待っていて」

 

 今日は結城さん達と一緒に動物園に行く予定なの。

 ずっと麻尋ちゃんが楽しみにしていたんだ。

 動物園は電車に乗って40分、ちょっと離れた場所にある。

 日曜日と言う事もあって家族連れが多い。

 彼女の手を引いて歩く私、結城さんはその後ろをゆっくりとついてくる。

 

「結城さん、後ろじゃなくて隣を歩いてくださいよ?」

 

「いや、その、何ていうか……」

 

「それとも私が相手だとダメですか?」

 

 彼が無意味に遠慮しているのはきっと家族としての在り方なんだと思う。

 周囲の目から見たら間違いなく親子に見えてしまうから。

 その辺を気にする気持ちは分かるけど、今日みたいな日くらい普通でいて欲しい。

 

「パパもてをつなぐ~?」

 

「そうだね、繋いであげて。麻尋ちゃん、ぎゅってしちゃえば?」

 

「ぎゅっ。パパ~っ」

 

 麻尋ちゃんを間に挟むように私達は歩くことに。

 どうやら彼は恥ずかしいだけだったらしい。

 

「……こういうの、慣れてないんだよ」

 

「ふふっ、結城さんらしいですよね。でも、今日だけは私も家族にいれてください」

 

「それを亜美ちゃんが望むのなら」

 

 大好きな人たちと一緒に過ごす時間は何よりも楽しい。

 動物園内で、色々な動物を私達は見て回る。

 

「めーさんっ!ふわふわ~っ」

 

「あれは羊って言う動物なんだよ。触ってもいいんだって」

 

 動物と触れ合えるコーナーで麻尋ちゃんは自分の身体と同じくらいある羊に抱きつく。

 羊はのんびりとした動きをする、癒し系だなぁ。

 

「めーさん、かわいいねぇ」

 

「人に慣れているのかな。ものすごく大人しい。ほら、麻尋ちゃん。写真を撮るよ」

 

 今日は麻尋ちゃんが主役なので、何枚も結城さんがデジカメで写真を撮る。

 子供を写真に撮るって行動がいかに楽しいものなのか。

 私は今になって初めてその気持ちが分かる気がした。

 子供の成長は早いもの、その時々で子供はたくさんの表情を変える。

 かけがえのない一瞬だからこそ、その瞬間を写真に収めたいんだ。

 

「……ねぇ、パパ。あれはなぁに?」

 

 麻尋ちゃんいわく、大きな猫のライオンを見終わり私達が次に来たのはキリンだった。

 長い首に胴が短く足の長い独特な形状をした生き物。

 

「キリンだな。へぇ、キリンって牛の仲間なのか」

 

 説明書きを見て結城さんはポツリと言う。

 

「俺はどうにもこのキリンって生き物が不思議でしょうがないんだ。子供の頃からずっとキリンを見るたび、変だと思った」

 

「そうですか?」

 

「まずは何で角があるんだ?首が長いワリにどうやってこの胴短長足のおかしなボディでバランスを取ることができるのか。今だにこの生き物だけは理解できない」

 

 うーん、言われてみると確かに変かもしれない。

 でも、麻尋ちゃんは初めて見る生き物にきゃっきゃっとはしゃいでいる。

 

「麻尋ちゃんはどう思う?キリンさんは可愛い?」

 

「えっと……よくわかんない?くびが、んにゅーってながいもん」

 

「あれは高い木の葉っぱを食べるために長いんだよ」

 

 動物って様々な進化をしているから面白い。

 麻尋ちゃんが1番気に入った様子を見せたのは、なぜかヘビだった。

 私は言うまでもなく爬虫類は大の苦手。

 

「きゃっ。わ、私、ヘビとか超がつくくらいに苦手なんですっ」

 

 目の前の檻に巨大なヘビが木に絡みついている。

 こちらを見つめる瞳と目があった気がした。

 

「うぅ、こちらを見ないで……」

 

 思わず結城さんに抱きついてしまう。

 彼は笑いながら、麻尋ちゃんに言うんだ。

 

「麻尋はヘビが好きか?この独特の質感とこのつぶらな瞳が可愛いよな」

 

「にょろさん?こわいけど、目がかわいい~っ。亜美おねーちゃん?」

 

「うぇーん。もうっ、嫌だよぅ。ぐすんっ」

 

 私はちょっと涙ぐんでいると慌ててふたりは外へと出てくれた。

 私はレッサーパンダとかフワフワした毛並みの愛らしい動物の方が好き。

 嫌だよ、あんな気持ち悪い生き物を見るのは……うぅ。

 

「ごめんね、亜美ちゃんがあんなにヘビが嫌いとは思ってなくて」

 

「いえ、私の方こそ。空気読まずにすみません。ホントに苦手なんです」

 

 気分が悪くなってしまい、ちょっとだけ休憩。

 ベンチに座る私の膝の上に麻尋ちゃんは乗りかかる。

 

「ごめんなさい~。おねーちゃん、だいじょーぶ?」

 

 こちらを心配してくれる麻尋ちゃん。

 本当にいい子だなぁ。

 撫で撫でしてあげながら私は気分を変える。

 

「次はどこにします?できれば、もう爬虫類はパスして欲しいです」

 

「分かったよ。それじゃ、次は……麻尋、ここはどうだ?」

 

 結城さんが連れてきたのは白クマのいるコーナーだった。

 巨体を揺らす白クマも初夏の熱さにだれ気味らしい。

 大きな欠伸をするクマは水の中にザブンッと身体を沈めた。

 

「大きいですね。そう言えば、ここの動物園。数か月前に小熊が生まれたんですって」

 

「秋ごろには公開らしいね。なぁ、麻尋。またその頃に来るか?」

 

「うんっ!チビグマさんみにこようよ。そのときも、また3にんでくるよね?」

 

 麻尋ちゃんにそう言われて私は静かに頷いた。

 また彼らと一緒にこの場所に来ることができたらいいな。

 

 

 

 帰りの電車の中では麻尋ちゃんは寝てしまっている。

 私は彼女を抱っこする形で寝かせてあげる。

 

「んにゅぅ……」

 

 無垢なる寝顔の可愛さは常に私の癒しになっている。

 こんなに可愛い子供が欲しいって思ってしまう。

 

「麻尋ちゃん、今日はとてもはしゃいでましたね」

 

「そうだな。普段、結構、大人しい方だけどやはり子供は子供だよ」

 

 手間のかからない、我が侭も言わないいい子だ。

 けども、子供というのは明るく元気にはしゃぎ回る方がいい。

 窓から差し込む夕焼け空。

 夕日に照らされつつ私は結城さんに言う。

 

「こうしてると、麻尋ちゃんのお母さんのような気持ちになるんです。今日もずっと、麻尋ちゃんのママになれたらいいなって思ってました」

 

「……亜美ちゃん」


「ふふっ。何ておこがましいですよね。私が奈々子さんの代わりになるなんて。でも、結城さん達と接していて思うんですよ。私もこの家族に加わりたいって」

 

 彼が困ったような顔をするのは予想済み。

 当たり前だよ、突然そんな事を言われたら誰でも困るもの。

 だけど、私は今日は逃げないと決めているんだ。

 

「あの、結城さん。運命って信じますか?」

 

「運命。誰もが逆らう事の出来ない宿命、絶対的な運命がある。運命という響きに誰もがロマンチックな解釈をする。俺と彼女は運命の仲、出会うべくして出会った、とか。そういうのは後付けでしかない。行動の結果を美化しようとしているだけにすぎない。初めから決められていたことなんてない。あまり好きじゃないな」

 

 決めつけられた意味が強い運命という言葉。

 ロマンチックな意味で取るか、逃れられない宿命としての意味で取るかによって大きくその意味は異なる。

 

「私もそうです。これは運命だから、それが運命という事ならば、そんな言い訳して自分の想いを誤魔化してきました」

 

 いつも私は運命という言葉を“言い訳”に使用してきた。

 これが私と結城さんの運命だからしょうがない。

 奈々子さんと交際しているんだから、諦めるしかないって。

 ずっと諦めたふりをして、実際はできるはずもなくて。

 そういうのをやめようと思うんだ。

 私は私の手でその幸せを掴みたいと思ってしまった。

 

「私、もう運命のせいなんてしません。そんなのはただの自分が逃げるだけの言いわけでしかないんです。私は結城さんが好きです。この想いは止められません」

 

「亜美ちゃんの気持ちは嬉しいよ。いつだって俺に協力してくれる。感謝しきれないくらいに恩を感じているんだ」

 

「違うんです。私はそういうのじゃなくて……」

 

 ふぅ、とひとつだけ深呼吸をして私は想いを告白した。

 長年、私の中でくすぶり続けていた気持ち。

 

「――結城さん。私と交際してくれませんか?」

 

 悩み続けていたことがある、前に進みたいと言う気持ちがあるの。

 私は結城さんが好き、麻尋ちゃんも好き。

 二人にとっての大切な存在になりたいんだ。

 

「私は結城さんが好きなんです、麻尋ちゃんの事も大好きです。奈々子さんとの事、苦しんでいるのは分かっています。だからこそ、私は結城さんのパートナーになって支えてあげたいんです」

 

 勇気がなかった私に力をくれたのは麻尋ちゃんだ。

 私に対して「ママになって欲しい」と言ってくれた。

 あの一言が私を後押ししてくれたの。

 

「……ダメ、ですか?」

 

 何も言ってくれない結城さん、黙り込んでしまっている。

 やはり私なんかじゃ彼の大切な人にはなれないの?

 不安に押しつぶされそうになりながらも、その口から出る言葉を待つ。

 

「亜美ちゃん。俺はキミが思うほど理想的ないい男じゃない」

 

「そんなことありません。ずっと憧れ続けてきた相手ですから」

 

「それに、まだ若い亜美ちゃんに苦労をさせたくない」

 

「それが結城さん絡みの事なら望んで受けます。おふたりが大好きですから」

 

 今日の私は一歩も引かない、ちゃんとした覚悟があるの。

 大好きな人に大好きだと言いたいから。

 

「俺も亜美ちゃんに惹かれていたんだ。再会した時からずっと……気がつけば大切な人になっていた。昔のように妹としてじゃなくて、女の子として――」

 

「結城さんっ、それって!?」

 

「俺と麻尋、ふたりして亜美ちゃんに色々と迷惑をかけちゃうかもしれないけれど、俺達も亜美ちゃんが好きなんだよ。キミが大好きなんだ」

 

 朱色に染まる景色を眺めながらきっと今の私は顔が赤い。

 そっと揺れる電車の中で結城さんは私にキスをしてくれる。

 同情だけじゃない、想いが繋がりあった初めてのキス。

 

「改めて言わせて欲しい。亜美ちゃん、よろしくね……」

 

「はいっ。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」

 

 ついに私達は恋人という関係に第一歩を踏み出すことになったの。

 新しい日常の始まり、それは避けては通れない痛みもある。

 分かっているよ。

 だけど、私は逃げないって決めたんだ。

 ちゃんと奈々子さんとも、向き合うんだって――。

 

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