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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
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第12章:愛を信じて《前編》

【SIDE:志水亜美】


 最近の私の行動について亮太兄さんから注意を受けていた。

 

「亜美、お前は初めての彼氏ができて楽しい盛りなのかもしれんが、最近の行動は目に余るものがあるぞ。夕食は外で、さらには外泊まで、次は同棲か?ん?」

 

「何で兄さんにそんな注意されないといけないの。外泊しているのは兄さんも同じ。大学生の頃はひどかったじゃない」

 

「うぐっ、僕は男だからな。しょうがないんだ」

 

「何がしょうがないのか知らないけど。兄さんがよくて私がダメな理由は何なのよ?両親は認めてくれているの。大学生なんだから自己責任でってね」

 

 問題なのはこの最近、ちょっと過保護っぽくなってきた兄だ。

 子供の時はあんまりかまってくれなかったくせに、私に彼氏が出来たという事を知って以来(実際は違うけど誤魔化してる)どうにも邪魔をしてくるの。

 両親は私には節度ある交際をするのなら、と認めてくれているのに。

 

「これ以上私の問題に口出ししないで。それよりも兄さんには聞きたい事があるの」

 

「何だよ、聞きたい事って?恋愛相談か?」

 

「間違っても兄さんには相談しない。奈々子さんって今、どこで何をしているの?」

 

「……おいおい、まさか事情を知ってしまったのか?」

 

 確かにふたりの離婚なんて知らない方がよかったかもしれない。

 だけど、私達は再会してしまったの、知らなかった頃には戻れない。

 

「この間、結城さんに会ったの。奈々子さんの話、聞けなかったから。兄さんは今でも連絡を取り合っているんでしょ?」

 

「そうだな。今は隣街の不動産会社の事務の仕事をしているぞ。だが、まだ亜美には会いたくないって本人が言っていた。色々と思う所もあるんだろう。悪いが、彼女が落ち着いてからにしてやってくれ」

 

「そう……。それなら、私に会えるようになったらいつでも連絡してって言っておいてね。私はいつでも待ってるから」

 

「了解。今度、会った時にでも伝えておくよ」

 

 奈々子さん、私に会えないって、やはり彼女も傷ついているの?

 この間の麻尋ちゃんの誕生日、間近にまで来ていた奈々子さん。

 ぜひ会って話がしたいの、そうするべきだと私は思う。

 

「ねぇ、兄さん。奈々子さんって何で離婚したりしたの……?」

 

「さぁな。それは本人にしか分からない事じゃないのか?」

 

 亮太兄さんははぐらかすようにそう言うと、仕事へと出て行ってしまう。

 何だろう、あの態度……何かを知っているのかな?

 

 

  

 

「……恋の話?私に恋愛相談?」

 

「こういうの、美代子にしかできなくて。相談にのってもらえないかな?」

 

 私は缶の紅茶を飲みながらサンドイッチに手をのばす。

 午前中、2限目のドイツ語の授業が休講だったので私達は早めの食事をしていた。

 今日は美代子とふたりっきりだったので、私は彼女に相談をしてみたの。

 どんなに間違えても兄さんに何てするものか。

 

「別にいいけど、相談って何かあったの……?」

 

「ちょっとワケありなのよ。これからどうすればいいのかなって悩み中なんだ」

 

 私はこれまでの結城さんとの経緯を説明することに。

 多少なりとも恋愛経験のある美代子なら私がどうするべきなのか、その参考になる意見をくれると思って、私は相談したのだけど、どうにも人に話すには勇気がいる――。

 なんとか説明し終えた後の彼女はものすごく微妙な顔をする。

 

「……とりあえず、亜美さんが自分から修羅場な道を進もうとしている事だけは理解したわ。私の意見?はっきり言って、その人からは身を引いた方がいい。苦しむだけよ、そんな恋愛は」

 

「な、何で?結城さんはすごくいい人なのよ?」

 

「その結城さんって人の人柄なんてどうでもいいの。それって前に言っていた初恋の人で、他人の旦那って言っていた人でしょ。それが離婚して、子供がいて……その世話をしているってどこの通い妻よ、亜美さん」

 

 うぅっ、通い妻って言われてしまった。

 まぁ、形的には似てなくもないけど、そういうんじゃないんだけどなぁ。

 美代子は私より先に食事を終えて、お弁当箱をしまいこみながら、

 

「あのさぁ、亜美さん。恋愛ってそんなに単純なものじゃないの。確かに今の彼を狙うのは初恋の想いを抱いてた亜美さんにとってはチャンスかもしれない。ようやく望んでいたフリーだもの、今が楽しいのは分かるわ」

 

「それじゃ、どこに問題があるの?私は別に……」

 

「4歳だっけ?子供がいるって、1番大変なパターンじゃない。いい?常識的にも子連れの男なんて絶対にやめた方がいい。子育てもしたことがない亜美さんができることじゃない。今はただのお世話でも、育てるのはまた違うもの」

 

 確かに美代子の言う事は正しいかもしれない。

 

「自分の子供ならまだしも他人の子供を育てるのよ?無理だってば」

 

「そんなことない。麻尋ちゃんはとても素直で可愛い子だもん。それに奈々子さん、あっ、彼の前の奥さんは私にとっては姉同然みたいな人なの」

 

「余計にダメじゃん!知り合いが元妻なんて最悪だよ。どーするのよ?」

 

 なぜか私は彼女に叱られる羽目に。

 そんなに怒られるようなことじゃないと私は思う。

 

「子供がいて、離婚した妻は近所のお姉ちゃんで……よくそんな恋愛ができるわね?」

 

「だから、そんなにひどい話じゃないの。美代子が思うほどではない。私が悩んでいるのは相手の結城さんは離婚している事で愛って何なのか、それに悩んでいる様子だからどうすればいいのかなって」

 

「……ふーん?悩むってことは優しい人ではあるんだ?でもさぁ、絶対、もう彼には関わらない方がいいと思うけどね。恋愛対象にするには問題が多すぎるもの。後になって傷つくのは亜美さんだよ?それでもいいの?」

 

 傷つく結末になるかもしれない事は分かる。

 大変な事も、未来の事に不安もあるよ。

 それでも私は結城さんの支えになりたい。

 

「いいの。私は結城さんの力になることができたら、傷ついてもかまわない」

 

「どうして?そこまでして、その人の事が好きなの?」

 

「……初恋だからかな。私はこれしか恋を知らない。他にどうすればいいかなんて分からない。だからこそ、もう後悔をしたくないの。私は中学の時に諦めて後悔をしているんだ。あんな気持ちになるくらいなら傷ついたって私はいい」

 

「それか。亜美さんの悪いところ、発見した」

 

 びしっと美代子は私に指をさす。

 そして、私に警告を込めて言い放つんだ。

 

「傷ついてもいいとか、そういう気持ちで恋をしちゃダメ!後ろ向きな気持ちだとそれが態度に出るの。私は応援してあげるから言うけど、亜美さんって結城さんに対してちょっと消極的すぎない?」

 

「しょ、消極的?どういう意味?」

 

「好きなら好きって態度で示しなさい。私が貴方を好きなんだ、再婚してもいいよって思わせられないとダメ。OK?」

 

「再婚って、別に私はそんなつもりじゃ……」

 

 彼女は手を交差させて「ぶーっ」と私に注意する。

 

「それがダメだって。子持ち男は遊んでる余裕ないの、恋人関係でラブラブなんて夢でしかない。向こうはすぐにでも再婚とか、そういう流れにしたいのよ。だから、彼に気に入られたいなら亜美さんも覚悟を決めて。そうじゃないならここで諦める。どちらかにしないと向こうも迷惑でしょ」

 

 彼女が最初に厳しい事を言ったのはそれなんだ。

 私の考えじゃ結城さんには迷惑になってしまう。

 

「どんなに辛くても耐える気持ちがあるのなら、亜美さんが幸せになれる選択をして。亜美さんも幸せになれないとこれから先、ずっと辛いよ」

 

 私はいつも心のどこかで逃げていたのかもしれない。

 彼と向きあうことは、私にとって大きな意味を持つ。

 これから、私と結城さんの関係を変えていく力が欲しい。

 どうすればいいいのかよく考えないとね……。

 

 

  

 

 ここ数日は結城さんがお仕事なので麻尋ちゃんの迎えは私の役目だ。

 いつものように保育所まで彼女を迎えに行く。

 

「亜美おねーちゃんだぁっ」

 

「今日も元気だね、麻尋ちゃん。それじゃ、帰ろうか」

 

「うん。じゃぁね、せんせー」

 

 保育園の先生に手を振って別れを告げる。

 

「んー、亜美おねーちゃん~」

 

 麻尋ちゃんは私に甘えるように身体にぎゅっと抱きついてくる。

 

「ふふっ、どうしたの?麻尋ちゃん」

 

「なんかね、ぎゅーってしたいの」

 

 このぐらいの年齢だとまだまだお母さんにも甘えたい年頃。

 私が麻尋ちゃんの身体を抱きしめてあげると嬉しそうに笑う。

 

「おねーちゃんってママみたい」

 

 私は「そう?」と聞き返すと頷いてくれる。

 

「だって、やさしくて、おりょうりじょうずで、あたたかいもんっ」

 

「麻尋ちゃんのママは優しくて温かい人だよ。私もよく知ってるわ」

 

「……でも、ママにはもうあえないんだって。パパがそういってたの」

 

 奈々子さんは私にも会えないと言っていた。

 今の私にできる事って何なのかな。

 麻尋ちゃんと一緒に帰りながら私は考えていた。

 

「亜美おねーちゃんが私のママになってくれたらいいのにね」

 

「……え?わ、私が?」

 

「だって、おねーちゃんのこと、すきだもんっ。パパもおねーちゃんがすきだよ。すきなひとはけっこんするんでしょ?」

 

 麻尋ちゃんの言葉に私はドキッとしてしまう。

 そんなこと、望んで……いないわけじゃないけど、夢でしかなくて。

 ダメだ……こんな考えじゃダメなんだ。

 私は美代子に言われた事を思い出していた。

 結城さんとの関係を考えるという事は麻尋ちゃんの事を考えるのと同じ。

 

「亜美おねーちゃんはパパとけっこんしないの?」

 

「それは結城さんが決めることだよ。でも、いつか麻尋ちゃんのママになれたらいい。それよりも今日は何を食べたい?」

 

 麻尋ちゃんや結城さんと一緒にいられる日々は楽しい。

 私もふたりの家族になれたら……いいな。

 

『自分の子供ならまだしも他人の子供を育てるのよ?無理だってば』

 

 ……そんなの関係ないよ、だってこんなに仲良くいられるもの。

 だけど、私はまだ、恋をして結婚するという言葉の意味を理解していない。

 いつかは直面する問題、私は心構えだけはしておかないといけないんだ。

 

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