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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ
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第10章:運命の分岐点

和輝視点のお話です。

【SIDE:結城和輝】


 “人生”とは“行動”の結果、つまりは“経験”の積み重ねである。

 その人がどんな生き方をしてきたか。

 誰もが同じ道を歩んできたわけではない。

 それぞれ、人の数だけ人生はある。

 それは結婚と離婚という相反するふたつの行動も同じ。

 大抵の人間は死ぬまでに結婚を経験する。

 だが、今の時代、離婚するという事はそう珍しくはない。

 ……自分がその道を選択するという想定外な行動をとるとは思いもしてなかったが。

 中学の時、俺は幼馴染の奈々子に交際を申し込まれた。

 

『和輝か亮太、どちらか迷ったんだけど、亮太は先に恋人出来ちゃったから。私と付き合ってよ、和輝。ね?幼馴染同士、仲良くしましょ』

 

『その選ばれ方は不本意だが悪くない』

 

 軽い恋愛ごっこから始まった俺達の恋愛。

 元幼馴染ゆえにお互いの関係を強く意識せずにいた。

 お互いに分かりあえないことなど、これだけの年数をともにした仲でありえないと思い込んでいたのが……終わりの始まりだったのかもしれない。

 大学卒業後、子供の麻尋が生まれ、幸せな日常を満喫していた。

 奈々子のことは信頼はしていた、愛情もあった、なのに……崩れていく幸せ。

 すれ違い、喧嘩ばかりしてしまう日々を過ごす毎日。

 

『和輝は一方的すぎるのよ。私の事を少しは考えて』

 

『そちらこそどうなんだ?都合が悪くなればすぐにそうやって言い訳ばかり並べて』

 

 どこで俺達は道を踏み外していたのだろう?

 浮気をしたわけでもないが、顔を見合わせるだけで気まずくなる。

 

『なぁ、麻尋。ママに明日の夕食はいらないって言っておいてくれ』

 

『あーいっ。あ、ママがね、こんどのにちよーはでかけるんだって』

 

 直接、話すのも嫌になり始めて子供を介してしかお互いに会話が成立しなくなっていた。

 そんなある日、奈々子は俺に言う。

 

『ねぇ、和輝。分かってるわよね、もう私達はダメだって……』

 

 離婚、その言葉が頭をよぎる。

 しかし、今日までその選択をしなかったのは麻尋のためだ。

 この子のために、それはできないと奈々子も避け続けていたはずなのに。

 限界が来ていたのだ、夫婦としての限界が……。

 やがて、俺の手元に離婚届の紙が奈々子から手渡された。

 結婚届の時と同じ、紙切れ一枚で関係がくっついたり、離れたりする。

 違うのは判を押す覚悟と意味、とても不思議な気分だった。

 麻尋は俺が引き取ることになった。

 いずれ再婚という話になった場合、子供の存在は女性の場合は不利になる。

 それに養育がどうのこうのという面倒な話はしたくなかった。

 

『……麻尋の存在がキミの今後に影響してはまずいだろう』

 

『ふっ。そういうこと、平気で言えるのね。結婚中にもう少し、私に関心と興味を抱いておいて欲しかったわ』

 

『それはお互い様だと思うがな。判は押した、あとはこの紙を提出するだけだ』

 

 運命の分岐点、これで本当に離婚してしまっていいのだろうか。

 俺には躊躇する心もあった。

 だが、奈々子の致命的な一言がその躊躇を吹き飛ばす。

 

『互いに愛がなくなった夫婦に意味はないわ。ダラダラと嫌々顔を突き合わすだけの毎日はうんざりなの。私はそれに耐えきれないし、耐えたくない』

 

 俺も同感で、未練はなくなった。

 離婚、その現実を受けとめた時、俺はショックだった。

 奈々子という存在から解放された。

 いつしか愛していたはずの女が重荷に思えていた現実。

 人は出会いと別れを繰り返す。

 出会って初めての恋をした相手が自分の生涯のパートナーになるとは限らない。

 何人も恋人を変えて理想的な相手と巡り合う。

 それが普通の人生、俺はその事を知らずにいた。

 だから、“離婚”というただの恋人関係の“破局”とは意味の違いすぎる行動をとることになったのだ……。

 初めての恋、奈々子との結婚はこのような結末しかなかったのだろうか。

 

  

 

 その後、俺も本社移転に伴う転勤のために住んでいた場所を離れた。

 あれから3ヶ月、奈々子とはそれ以来、連絡も取り合っていない。

 麻尋に会いたいのならば許可すると言ってはあるが、携帯電話の番号も変えたらしく、居場所も分からずじまいだ。

 それよりも、俺は日々の生活に忙しくて別れた妻の事など考えている余裕はない。

 麻尋との生活は楽しくも、苦労が絶えない。

 子供の面倒をみながら仕事をするということは並大抵のことではない。

 特にまだ幼い保育園に通う年頃の娘なら尚更だ。

 仕事は仕事で残業もろくにできず、上司に睨まれ苦労していた。

 このままじゃ、どちらもダメになってしまう、そんな危機感さえあった。

 どうすればいいのか、分からなくなり始めていた7月初旬。

 俺は運命的な再会を果たすことになる。

 

『お久しぶりです、志水亜美ですっ』

 

 幼馴染の妹、俺にとってはずっと本当の妹のように可愛がってきた女の子。

 会わない間にすっかりと一人の女性へと変わっていた。

 昔は猫のように可愛らしさが目立つ容姿だったが、美人と呼べる容姿に変わっている。

 女の子の成長は男の成長よりも見た目が変わるものだ。

 彼女の存在は俺に大きな影響を与えてくれる。

 その優しさに癒されながら、俺は亜美ちゃんに色々とお世話にもなる。

 大学帰りに彼女は俺の家により、麻尋の世話をしてくれるのだ。

 問題なのは食事だ、俺だけならコンビニで十分なのだが、どうにも麻尋はコンビニやレトルト物の食事が嫌いらしい。

 亜美ちゃんは子供向けの味付けで料理をしてくれるので非常に助かっている。

 奈々子という母親がいないことに、麻尋も当然寂しくなっていた。

 その寂しさも、亜美ちゃんは麻尋と接してくれることで癒してくれている。

 ここ数日の間、我が家は賑やかでいい雰囲気だ。

 しかし、そのことが亜美ちゃんの負担になっていないか心配だ。

 その辺もよく考えていかないといけない。

 いつまでも甘え続けるわけにもいかないのだから。

 そう考えてはいるが、正直、かなり助かっているのも事実だ。

 

 

 

 

 大手食品会社に勤める俺は今の時期、かなり大変だった。

 以前に上司に提案していた企画が採用され、その責任者に任命されていたのだ。

 初のプロジェクトチームのリーダー、緊張はする。

 

「先輩、今度のプレゼン用の資料、できあがりました。チェックをお願いできますか?」

 

「あぁ、見せてみろ。うん……いいな、この方向で進めてくれ」

 

 部下の子が提出してきた資料を眺める。

 資料だけでもまとめるのにかなりの時間をようする。

 

「あと4日、上層部に納得してもらえないとアウトだからな」

 

「今のところ、問題なく進んでいますよ」

 

「皆が優秀で助かっている。さて、次は……」

 

 今回の企画、プレゼンの内容次第で上層部の対応も変わる。

 何としても乗り切るために必死になっていた。

 気がつけばいつもは退社する5時過ぎ。

 普段ならば、これから麻尋を保育園へ迎えにいかないといけないのだが……。

 

「まだこれだけの量があるのか」

 

 思わぬアクシデントも重なり、今日中に終わらせないといけない仕事が出てきた。

 こう言う時が一番困る、今までは麻尋のために無理をして帰宅したりしてきたが、さすがに今回は帰れそうにもない。

 困り果てた俺は亜美ちゃんに連絡することにした。

 彼女を頼りにしすぎるのはいけないのは分かっているのだが。

 

『結城さん、どうしましたか?』

 

「亜美ちゃん。悪いんだが、今日は麻尋を保育園へ迎えに行ってやってくれないかな。どうにも仕事が終わりそうにないんだ。今、とても忙しい時期ではずせないんだ」

 

『お仕事、忙しいんですね。分かりました、任せてください。食事はどうします?』

 

「俺は適当に食べるから、亜美ちゃん達ですませておいてほしい」

 

 すでに夕食の弁当を買いに部下が外へと出かけてくれている。

 無理なお願いに二つ返事で「分かりました」と答えてくれる亜美ちゃん。

 自分の子供の面倒すらちゃんと見れないなんて……。

 

「亜美ちゃんにはホントにすまないと思っている」

 

『もうっ、そんなに気にしないでくださいよ。麻尋ちゃんの事は私が何とかします。だから、お仕事頑張ってください。今が大変な時期なんでしょう』

 

「あぁ、今回の企画さえ通してしまえば何とかなる。それまでは亜美ちゃんにお願いするしかない。これが終わったら、一緒にどこかへ遊びに行こうか?」

 

『麻尋ちゃんと3人で行きましょうよ。そうだ、麻尋ちゃんにもどこがいいか聞いておきますね。それでは、お仕事、頑張ってください。無理はしないでください』

 

 亜美ちゃんはそう言って電話を切る。

 麻尋もずいぶんと懐いてるので、安心して任せられる。

 彼女には頼りになりっぱなしだ、そのうち借りは返さないとな。

 

「ん、結城先輩。お子さんは大丈夫なんですか?」

 

「子供は頼りにしている子に任せた。今日は大丈夫だ」

 

「ふふっ、先輩、再婚でもしたんですか?この頃、ずいぶんと落ち着いてきてますよ?」

 

 離婚したての頃は子育てに必死で、仕事にも影響していたからな。

 今は亜美ちゃんのおかげで落ち着いてきている。

 

「再婚ではないが、子供の面倒をみてくれて助かっている。やはり、離婚なんてするべきじゃない。ひとりで子供を育てるのは大変だな」

 

「先輩もその人に救われているんじゃありません?」


「そうかもしれないな」

 

 これから先、こんなことはいくらでもあるはずだ。

 遅い時間までしている保育園に変えるという手もあるが、それじゃ根本的な解決にはならないだろう。

 ……どうにかしなければいけない事が多すぎる。

 

「仕事がひと段落したらそちらも考えなければいけないな……」

 

 ため息をついて、俺は机の上にあるコーヒーに手をのばす。

 さて、さっさと仕事を終わらせるとしようか。

 

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