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トイレの神様

作者: 桂まゆ

歌を聴いていて、思い出した出来事です。全部が実話ではありません。

新年早々に、すみません。

 「トイレの神様」。そんな歌が歌われているけど。

 トイレに、美しい女神様なんかいない。それを私は知っている。

 小さな頃に聞いた話だ。「女の子はトイレを掃除しないといけないよ。トイレを掃除すると、色白で可愛い子供が生まれるんだよ」って。

 色白イコール可愛いというのが、一番気に入らなかった。色黒で、何が悪いんだって。

 友達の中では、多分いちばん美人だと思っていた。

 小さな頃から「すごい可愛い」って言われていた。「おまえはモデルさんになれるよ」って。

 自分でも、そう思っていた。でも、少しだけ。

 色白で綺麗な髪の女の子――従妹のちひろにあこがれていた。


「ちーちゃんは、お姫さまみたいやなぁ」

 ちひろを見て、祖母はそう言った。

 いつも、私のことを「美人になるよ」「モデルになれる」と言ってくれた祖母。でも「お姫様」と呼ばれた事は一度もない。

 夏休み。私は日に焼けてますます真っ黒。でも、ちひろは日に焼けて赤くなってもすぐに冷める。すごく頑丈な肌の持ち主だった。

 白いワンピースが似合うちひろ。お姫様になりたくて、一度貸してもらったけど。

 私が着ても、ますます肌の色を際だたせただけだった。

「まーちゃんは、もっと明るい色が似合うで」

 そう言って、祖母はさっきまで私が着ていた服を差し出した。泣きそうになった。容姿に不満があったわけじゃない。その時の私はただ、祖母に「お姫様」と呼ばれてみたかっただけなのだ。


 そんな頃だった。

 学校のトイレ掃除をさぼった私たちに、用務員のおばちゃんが言った。

「女の子は、トイレ掃除さぼったらあかんで。トイレを掃除したら、色白で可愛い子が生まれるんやで」

「そんなん嘘や。トイレ掃除してってなんの得にもならん」

 反射的に、そう言った。

 「色白で」という言葉が癪に触ったからだ。

 「そうやそうや」と友達が続いてくれた。嬉しくなっておばちゃんの顔を見ると、おばちゃんはあきらかにむっとした顔をしていた。

「そうか」

 おばちゃんが、私を正面から見た。

「あんたのお母さんはさぞかし、トイレ掃除さぼってたんやろうな」

 それは、私の心にずしんと響いた。

 私が色黒なのは、お母さんがトイレ掃除さぼっていたからなのか?

 だから私は、「お姫様」にはなれないのか?

「まーちゃんは、可愛いやん」

「おばちゃん、頭おかしいんちゃうか?」

 そんな友達の言葉を聞きながら、私は泣いた。

 声を張り上げて。きっと、彼女たちの前では初めて、本気で泣いた。

 その後の事は、よく覚えていない。

 友達の話を統合すると、私はたくさんお菓子をもらって家に帰ったらしい。そして、おばちゃんは二度と「トイレの神様」の話はしなくなった。


 私は、モデルにも女優にもならなかった。

 普通に結婚して、主人の知り合いから「美人な奥さんやなぁ」と呼ばれているが、そんなことはどうでも良い。

 結婚式に来てくれた祖母が「まーちゃん、綺麗やね。お姫様みたいや」と言ってくれたのが、最大の賛辞だったから。

 そして。

 私の日課のひとつに「トイレ掃除」がある。

 色白で可愛い子供が欲しいのかと聞かれたら、どうだろう。

 それよりも。

 こんなに奉仕してるんだから、そろそろ……。


 トイレに神様がいないことなんか、私はとっくに知っている。

 トイレにいるのは、気まぐれな妖精さんだ。可愛くても、可愛くなくても。出ないより、出る方がよっぽど良い。

 だから、私はトイレに住む妖精さんにお願いするのだ。

 今日も綺麗に掃除しました。だから……生ませてください。


便秘は、身体に毒をためているようなものです。

なので、「トイレ掃除して、可愛い子を……」シモネタですみません。

とりあえず、これでだれかさんにつけられた便秘女の汚名だけは返上できるかと……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 単なる下ネタかと思いきや、その奥にちらちらと見え隠れする女性の可愛らしい心情が絶妙な味わいの作品でした。 相変わらずのテクニシャンですね〜 (^_^) それにしても桂まゆ先生って、下ネタがか…
[一言] 失礼いたします。 明けましておめでとうございます。 昨年はバトンでお世話になりました。 2011年も桂まゆ先生にとって良い年でありますよう祈っております。 私が「トイレの神様」の歌を初めて…
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