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色気がないと婚約破棄されましたので、殿下好みのドレスをやめました

作者: 月白ふゆ
掲載日:2026/08/09

王立学院の卒業夜会。


十八歳を迎えた卒業生たちが集う大広間の中央で、王太子アルノーは婚約者へ告げた。


「エマ・ハルト。君との婚約を破棄する」


楽団の音が止まった。


呼ばれた少女は、静かに王太子を見る。


茶色の髪は隙なく結い上げられ、濃紺のドレスは喉元から手首まで肌を覆っている。

宝石も小さな耳飾りだけ。

六年間、ずっと同じだった。


「理由を伺っても?」


「君には華がない」


アルノーは隣に立つ伯爵令嬢へ視線を向けた。


明るい金髪。

胸元の開いた桃色のドレス。

柔らかな笑顔。


「女性なのだから、もう少し華やかであってほしかった。愛嬌も、色気も。君はあまりにも堅苦しい」


「左様でございますか」


エマは頷いた。

怒らない。

泣かない。

それすらも、アルノーには面白くなかったらしい。


「そういうところだ。何を言っても澄ました顔をしている。君は昔から――」


「殿下」

エマは遮った。


「ひとつ、確認してもよろしいでしょうか」

「なんだ」

「婚約は、たった今、正式に解消されたのでございますね?」

「ああ」


「では」

エマは微笑んだ。


「もう、殿下のお言いつけを守る必要はございませんね」


「……何?」


エマは近くの卓へ歩み寄った。

銀の食事用ナイフを一本取る。

周囲がざわめいた。


だが彼女が刃を向けたのは、自分ではない。


ドレスだった。


喉元を覆う布へ刃を差し込む。

ぷつ、と糸が切れた。


「エマ!?」


さらに切る。


襟を。

胸元を覆う厚い布を。


六年前、アルノーが言った。

――未来の王太子妃が胸元を晒すものではない。


エマは切った布を床へ落とした。


白い鎖骨が現れる。


もう一度、背へ手を回す。

留め具の下へ刃を滑らせた。

――背中の開いた服など品がない。


布が裂ける。


肩から背中へ、大きく肌が現れた。


「な、何をしている!」

「殿下のお嫌いだったものを、元に戻しておりますの」


最後にエマは裾を摘まんだ。

刃を入れる。

膝。

その上。

片脚に沿って、深いスリットが開く。

――脚を見せるな。


布に隠されていた長い脚が、歩くたびに覗く。


そしてエマは髪へ手を伸ばした。

髪留めを抜く。

茶色の髪が、背中へ一気に流れ落ちた。


大広間から、完全に音が消えた。


アルノーが呆然と呟く。


「……エマ」


彼女は振り返った。


「それも、殿下がお決めになった名前でしたわね」

「何を……」


「エマルヴェルは長すぎる。ブラウンハルト公爵家の名を学院で振りかざすな。エマ・ハルトと名乗れ、と」


六年間。

エマルヴェルは従った。

髪を隠した。

肌を隠した。

身体の線を隠した。

宝石を外した。

家名を縮めた。

名前まで縮めた。


その結果。

華がないと言われた。


エマルヴェルは、小さく笑った。


「まさか殿下ご自身がお隠しになったものを理由に、婚約を破棄されるとは思いませんでしたわ」


アルノーの唇が動く。

だが言葉は出なかった。


エマルヴェルは床に落ちた濃紺の布を跨いだ。


深く切った裾が揺れる。


「改めまして」


背筋を伸ばす。


もう、王太子の望んだ女ではない。


「ブラウンハルト公爵家長女、エマルヴェル・ブラウンハルトでございます」


そして美しく一礼した。


「以後、どうぞお間違えのないように」


その夜。


最も華やかな令嬢が誰だったのか。


少なくとも、誰一人として迷わなかった。

はい、夜勤明けです。


首が痛い。

腰が痛い。

眠い。


でも、なんか勢いが欲しい。


飲んでからの勢いじゃなくて、

飲む前の勢いが欲しい。


ということで、キーを叩きました。

その結果がこれです。


エマルヴェルさん、だいぶ勢いよく切りましたね。

ドレスを。


なお、まだ寝ません。

昼のビールを飲むまでは。

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― 新着の感想 ―
あはや様(若年性健忘症)↓↓↓に1票w(*`艸´)♪
王子がクソですな! 命令しておいて忘れるな。 若年性健忘症か。 こんなのが王太子で大丈夫か、この国。 脱出脱出⭐︎
お疲れ様、楽しく読ませてもらってマス
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