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婚約破棄され、生涯投獄を言い渡されたので助けを呼びました。〜助けてー! ドラちゃーん!〜

作者: 衛星 奏志
掲載日:2026/04/02

楽しんでもらえたら嬉しいです!

 

 眩く輝く王宮の大広間には、学園を卒業し、正式に成人となったばかりの令息令嬢たちが一堂に会していた。

 

 本格的に社交界へと身を投じる彼らは、家門の責任を背負い、国を支える柱としての役割を期待されていた。

 

 そんな期待と不安の中、これまで共に学んできた友人達との時間を惜しみつつ穏やかな一時を過ごすこの場にそぐわない声が上がる。

 

「聖女アリアト、いや、貴様はもう聖女とは呼べまい。罪人アリアト、貴様との婚約を破棄するっ!」

 

 この国の第一王子、クリストグリフは会場の中央で、小柄な少女にそう突きつけた。

 

「罪人」とは何事か――。集まった視線の先には、淡い金色のふわふわとした髪と、エメラルドの瞳を持つ少女が立っていた。十七歳のはずだが、実年齢よりもずっと幼く見える。

 

 アリアトと呼ばれたその少女は、愛らしい顔をコテンと傾げた。

 

「理由をお伺いしても?」

 

 鈴を転がすような声。そこには悲嘆も怒りもなく、ただ純粋な疑問だけが宿っていた。

 

「貴様は聖女という身分にありながら、神殿にもおらず聖女の務めを怠け、さらには結界を張る力が弱まっているだろう?」

「……それの、何が問題なのですか?」

 

 何の問題があるのか分からずに問い返すと、クリストグリフは、「はあ?」と、呆れたような声を上げる。


 どこまでも噛み合わないアリアトの返事に、クリストグリフは苛立ちを募らせた。


「力が弱まっているのは認めるんだな? 貴様は愚かなる行いにより神から聖女の力を奪われ結界を張る力を失いつつある、間違いないな? そんな貴様が第一王子である私の婚約者でいられる訳がないだろう」

「はぁ」

 

 アリアトの気の抜けた返事にイライラしながら、クリストグリフは傍らに侍る深紅のドレスを纏った派手な容姿をした美しい女性の腰を引き寄せた。

 

「皆の者、聞いてくれ! 私、クリストグリフ・フィルダン・アイラルティールは神から聖なる力を奪われし罪人アリアトとの婚約を破棄し、新たに、尊き血と優しき心を持つ、サンディナ・ブローシャー公爵令嬢と婚約する。罪人である貴様は生涯牢で罪を償え」

 

 様子を見守る周囲からは戸惑いの声と聖女の処遇に悲鳴が上がる。

 

「投獄……でございますか?」

「そうだ。貴様は平民でありながら、聖女という身分を傘に着て公爵令嬢であるこのサンディナに嫌がらせをし、殺害を目論んだ。その罪により神から力を取り上げられた罪人である。貴様は本来ならば極刑が相応しい。しかし心優しいサンディナが減刑を求めた。よって投獄で許してやろうというのだ、温情に感謝しろ」

 

 アリアトには嫌がらせなどした覚えはなかった。

 そもそも、身寄りのない彼女を孤児院から連れ出し、聖女として祭り上げ、王子の婚約者に据えたのは王家の方である。

 このままでは、アリアトは牢に入れられ、その後どうなるかも分からない。

 アリアトは意を決し、大きく息を吸い、叫んだ。

 

「わーん! 助けてぇ~ドラちゃ~ん!」

 

 大して大きくはなかったが、初めて聞いたアリアトの大きな声にクリストグリフは一瞬身構えたが──すぐに下卑た笑みを浮かべる。

 

「ふんっ、貴様に何が出来る? 友もおらず、慕う者もいない。助けを呼んだところで、誰も助けには来ない。哀れだな」

 

 クリストグリフの腕に腕を絡めたサンディナも勝ち誇ったようにアリアトを見下している。

 

「衛兵! この者を地下牢へ連れて行け! 貴族牢ではない、重犯罪者用の牢だ」

 

 周囲が驚き騒つく中、クリストグリフが衛兵に指示をしていると地響きの様な不気味な音が鳴り響いた。


 

 *************


 

 この国では数百年に一度、ドラゴンが子育ての為に飛来する。


 ドラゴンは魔物を遠ざけ、土地を豊かにする。

 恵みをもたらすドラゴン飛来の情報は直ちに王の元へと届けられ、王城は歓喜に沸いた。

 ドラゴンは子育ての為に飛来している為、邪魔をせずそっと遠くから見守るようにと国から通達が行われている。


 もし邪魔をして次から来なくなってしまうと恩恵を受けられなくなり、北方は元の痩せた土地に戻ってしまうからだ。


 北方の地域ではドラゴンを神として信仰している地域も少なくない。

 だからこそ、城を揺らすその気配に、誰もが血の気を失った。



 不気味な音に、会場が恐怖に混乱し、衛兵すらも動けない状況で一人、アリアトだけが歩をすすめる。


 アリアトを止めようと王子は声を出そうとするが、再び轟いた地鳴りの様な音に竦み上がった。


 やがて羽音まで聞こえてくる頃には、窓がガタガタと揺れ始める。


 ドンッ! ガリガリ。


 大きな音と共に、天井が外から引き剥がされた。

 大きく開いた穴から覗くのは巨大なドラゴンの瞳だ。


「ひぃっ」


 誰の声ともわからない声が上がる。


 その穴から一人の男がホールに降り立った。


 スラリとした長身、夜明け前のような群青色の髪に、金色の瞳。瞳は上下に裂け、人ならざる者だと一目で分かる。

 驚くほど美しい顔を険しく歪めた男は、アリアトの方を向くと、さっと笑みへと表情を変える。


 あまりの美しさに周囲が息を飲んだ。


「アリアト、迎えに来た。だから言ったのに、こんなところサッサと出て行こうって」

「でも、お母様の子育ても終わっていなかったでしょう?」

「それはそうだけど、母さんだってこの国は居心地が悪いって言ってたからすぐにでも出て行くつもりだったと思うよ?君がいたからいただけで」


 周囲を置いてけぼりにして親しげな二人の様子にクリストグリフはワナワナと拳を揺らした。


「アリアト、貴様、サンディナの殺害未遂だけでなくそこの男と不貞までしていたのか!」

「クソ野郎である貴様らとアリアトを一緒にするのはやめろ」

「なんだと?」

「頭が足りない貴様に教えておいてやる。アリアトの力が弱まった? 違う。お前たちの国に結界を張る必要なかっただけだ。母さんが魔物を遠ざけていたからな。

 アリアトは、その力を俺たちの巣に使ってくれていた。卵を狙う愚かな人間から、俺たちを守るために。

 今までの聖女達もそうしてくれていた。その代わり、俺たちドラゴンはこの国から魔物を遠ざけ、大地を豊かにした。別に俺たちはこの国に来る必要はない。

 それでも来ていたのは、歴代の聖女たちへの恩があったからだ。

 だが、お前たちにはもう聖女は必要ないらしい。なら、アリアトは俺たちが連れて行く」


 男が、アリアトの肩に手を回し背を向ける。


「邪推してるみたいだけど、今回は俺の妹を母と共にアリアトが育ててくれた。俺はそこにいただけで不貞などしていない。貴様らと一緒にするな。まあ、俺はアリアト嫌いじゃないんだけどね」


 男の背中と腰のあたりに合計四枚の羽が現れる。


「そういう訳ですので、私はお母様と、ドラちゃん達と共にドラゴンの国へ参ります」

「今後、我々ドラゴンは二度とこの国に来る事はないだろう」


 吐き捨てる様に言う男にクリストグリフの顔がサッと青くなる。


「は? え? ちょ」


 聖女がいなくなるという意味に、事の重大さにようやく気付いた王子が狼狽える。


 結界が弱まっていたというのが間違いなら、いや、弱くとも結界があるのとないのとでは大きく違う。


 しかも、恵みをもたらすドラゴンも二度と来ないと宣言したのだ。


「き、君がいなくなると困る」


 王子がすがる様に言う。


「でも、私はいらないのでしょう? 婚約は破棄されましたし、牢屋に入れられるのは嫌です」

「い、入れない。牢に入れるのは嘘をついたサンディナの方だ。おい、この女を連れて行け!」

「え?」


 自分の腕にしがみついていたサンディナを乱暴に引き剥がし、ドンと押しやる。

 サンディナはバランスを崩してその場に倒れ込んだ。

 サンディナは信じられないものを見る様にクリストグリフを見上げている。


「結構です、殿下。言ったことに、取り消しはできないのですよ」


 ふわりと二人の体が浮く。


「待て! 待ってくれ!」


 アリアトは周囲を見渡すとにっこり微笑んだ。

 王都では一度も見せたことのない可憐で眩しい笑顔だった。


 ドラゴンと共にアリアトが去った直後、王と衛兵たちがどっと雪崩れ込んできた。


「何があった?」


 王が駆け寄るとクリストグリフはヘナヘナとその場に座り込んだ。


 使い物にならない息子を見て、王は周囲に事情を求めた。


 状況が分かるにつれ段々と蒼白になり、最後はクリストグリフと同じ様にヘナヘナとその場に座り込む。


 会場からは次々と人が飛び出していく。


 特に北方に領土を持つ令息、令嬢は我先にと会場を飛び出していった。

 今後の対応を誰よりも先に考えなければならない。


 王は震える声で呟いた。


「……終わった」


 王の言葉は静かに、そして無情に響いた。



 *************



 アリアトを抱き上げて、滑る様に空を飛んでいく。


 並んで飛んでいるのは大きなドラゴンで、子育てに飛来した母ドラゴンとその背には生まれたばかりの小さなドラゴン。


「ドラちゃん、助けに来てくれてありがとう」

「もう婚約者も居なくなったんだし、そろそろ俺の名前を呼んでくれてもいいんじゃないか?」


 アリアトは婚約者のいる身で他の男性を名前で呼ぶのははしたないとして、彼のことをドラゴンのドラちゃんと呼んでいた。


「さあ、呼んでごらん、フィーリィーと。フィーでもいいぞ」


 普段は身長差で遠い顔も、抱き上げられている今はとても近い。

 アリアトはいたずら心が湧いた。


「フィー?」


 名を呼んだ瞬間二人を包んでいたフィーリィの魔力が一瞬喪失し、ガクンと急降下する。


「きゃっ」

 急降下にアリアトが小さく声を上げる。すると隣を飛んでいた子ドラゴンまで「ギャァ!」と驚いたように鳴いた。


「ごめんごめん。アリアトのあまりの可愛さで心臓が止まるかと思った」


 耳まで真っ赤にしたフィーリィがアリアトを抱えて再び上昇する。


「急降下で心臓が止まるかと思いました」

「心臓が止まると困るな」

「ふふ。これからどんなことが起こるのでしょうか?」

「まあ、少なくとも王城にいる時よりは刺激的な日々だと断言できるな」

「楽しみです!」


 二人の楽しそうな会話を温かく見守る母ドラゴンが、大きな翼をはためかせ、グンと速度を上げる。


 アリアトは頼もしい腕に抱かれながら、これからの旅路に胸を躍らせた。


険しい山の頂上にあるドラゴンの国にはドラゴンだけでなく、様々な貴重で珍しい生き物が住んでいた。

聖獣もいて、悪しき者が入らない様国全体に結界を張ったアリアトはモフモフパラダイスで幸せに暮らしましたとさ。


次回予告

え、婚約破棄?理由は……貧乳だから?よし、右の頬を出せ!次回「聖女にも能力ランクがあるの知りませんでした?」次もよろしくお願いします!

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