第四章 偶像
ノアの噂は、ついに浄化区域、つまり都市部にまで届いた。 アカデミーの資産を管理していた巨大企業は、自社が廃棄したアンドロイドが「聖遺物」として崇められていることを知る。彼らにとって、それは自社の技術の無断利用であり、社会秩序を乱す危険な偶像に他ならなかった。
企業は、スラムの「聖遺物」を回収するため、武装した部隊を派遣した。 「我々の所有物を、速やかに返還せよ」
しかし、スラムの住民たちは、武器を手にノアの前に立ちはだかった。彼らにとって、ノアはもはやただの人形ではない。自分たちの希望であり、魂そのものだった。
戦闘が始まった。 銃声と怒号が飛び交う中、ノアは祭壇の上で静かに佇んでいた。その身体に、流れ弾が数発命中し、白い肌に黒い穴が空いた。だが、ノアは倒れない。
カイトは、妹を守りながら、祭壇の上のノアを見上げた。 あれは、神でも女神でもない。ただの機械だ。 だが、あの機械が、希望を失っていた人々を一つにした。武器を取らせ、立ち上がらせた。 カイトは悟った。奇跡を起こしたのはノアではない。人々が、ノアを信じることで、自分たちの中に眠っていた力を引き出したのだ。
彼は叫んだ。「ノアを守れ!俺たちの未来を守るんだ!」
その時、最大の奇跡が起こる。 企業部隊の隊長が、ノアを破壊しようと銃口を向けた、その瞬間。 ノアの身体が、動いた。 それは、エリアスが最後の日、妻がよくとっていたポーズを懐かしんで、プログラムに遊びで入力した、特殊なポーズだった。身体を捻り、片腕を大きく広げ、何かを庇うような、白鳥の舞を思わせる優雅な動き。
ノアの腕が、偶然にも、隊長の銃口と、その先にいた子供の間に滑り込んだ。 まるで、聖母が信者を庇うかのように。
その非現実的な光景に、部隊の兵士たちさえも動きを止めた。 銃声が止み、静寂が訪れる。 人々は、ひざまずいていた。




