第二章 巡礼
噂は、ゴミの山の風に乗って広がった。
「瓦礫の中から、言葉を話す女神像が見つかった」
「その像に触れると、病が癒える」
人々は、ノアを一目見ようと、カイトのアジトへ集まり始めた。彼らはノアの前に、ガラクタの供物を置き、祈りを捧げた。ノアは、ただプログラムされたデフォルトのポーズで立ち尽くすだけだった。だが、その完璧なフォルムと、時折漏れ出す不可解な音、そして剥き出しの関節が見せる痛々しさが、人々の想像力を掻き立てた。
ある日、長い間、足を引きずっていた老婆が、ノアの足に触れた。その直後、偶然にも足の痛みが和らいだ(それは長年の思い込みが、強い自己暗示によって一時的に解消されただけだったかもしれない)。だが、老婆は涙を流して叫んだ。
「奇跡だ!女神様が、癒してくださった!」
その日から、ノアは「モノ」から「聖遺物」へと完全に変貌した。 カイトは戸惑った。彼はノアをただの美しいガラクタだと思っていた。だが、ノアの周りに集まる人々の目には、狂信的なまでの光が宿っていた。ノアの存在は、希望のないスラムに、初めて「信じる対象」を与えたのだ。
人々はノアを神輿のように担ぎ上げ、スラムの中心にある、廃墟と化した古い教会へと運び込んだ。祭壇に立たされたノアは、ステンドグラスの光を浴び、まるで本物の神像のように見えた。




