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オリビア  作者: Leon
8/8

第8話




いつの間にか日が傾いていた。

病院の廊下に座って、どれだけの時間を過ごしたのか分からなかった。

俺は壁にもたれて座り、手のひらで顔を覆った。

目を閉じれば、このすべてが消えるだろうか?

だが、目を閉じても現実はそのままだった。

白い光が満ちる廊下、

消毒液の匂い、

どこからともなく聞こえる人々の足音。

俺は息を殺し、看護師たちの案内に従って病室へ向かった。


病室のドアを開けると、オリビアがベッドに座っていた。

彼女は泣いていた。

否、崩れ落ちていた。

俺は言葉もなく近づき、彼女を抱きしめた。

だが、それが何の慰めにもならないことは分かっていた。

「大丈夫だ。」と俺は言ったが、

その言葉に大丈夫の力はなかった。

オリビアは小さな体を丸め、

まるで自分が消えてしまいたいかのように泣いていた。


その時、担当の医師と看護師たちが静かに部屋に入ってきた。

彼らの手には、小さな布に包まれた何かが載せられていた。

俺は息を飲んだ。

生まれたばかりの赤ん坊。だが、泣かない子。

緑色の布に包まれて、小さく静かな姿が俺の目の前に置かれた。

俺は気づいた。あれが――俺の娘だということに。


「抱いてもいいですか?」


声が震えていた。

看護師はそっと頷き、赤ん坊を俺の腕の中にそっと渡した。

体が硬直した。指先がしびれる。

とても軽く、そしてあまりにも冷たかった。

赤ん坊は小さな手をそっと合わせ、目を閉じていた。

眠っているように、穏やかに。

だが――永遠に目を覚まさないことを俺は知っていた。

俺は赤ん坊の肌をそっと撫でた。

柔らかい肌。完璧な指。

かすかに湿った髪。

すべては完璧だが、息がない。

唇がかすかに震えた。耐えられなかった。

俺はついに、娘を抱きしめて嗚咽した。


「こんなの現実じゃない。俺の娘が……俺の娘が……!」


その瞬間、小さな脚がわずかに動いた。

俺は夢見心地で叫んだ。


「先生、足が……今、足が動きました!」


担当医は落ち着いて首を振った。


「痙攣です。」


俺はその言葉を信じられなかった。


「違います。確かに動きました。」


「マイケルさん、痙攣なんです。」


俺は発狂しそうになった。

赤ん坊を揺さぶり、息を吹き込み、目を覚まさせたくてたまらなかった。

だが、赤ん坊は反応しない。

力が抜けていく。息さえも吐きたくなくなった。

オリビアは涙を飲み込みながらつぶやいた。


「少し時間をください。」


医師と看護師たちは静かに頷き、部屋を出ていった。

残されたのは、沈黙だけだった。

俺はゆっくりとオリビアに赤ん坊を渡した。

彼女は大事そうに抱きかかえた。言葉はなかった。

ただ、指先で赤ん坊の頭を優しく撫でていた。


「小さすぎる……」


その声は今にも壊れてしまいそうだった。俺は彼女の隣に静かに横たわった。

この時間が止まればいいと願った。いや、過去に戻りたかった。

俺は赤ん坊の小さな手に触れながらささやいた。


「パパだよ、可愛い子。本当にごめん。こんなに早く君を送ってしまって。」


俺はオリビアの手を強く握り、問いかけた。


「名前をつけて、送り出そう。」


彼女は長い間、何も言わなかった。

唇を固く結んだまま、ただ涙を流していた。

そして、静かにささやいた。


「ヴァイオレット。ヴァイオレット・ヘンソン。」


俺は震える息を吐き出した。


「綺麗な名前だ……ヴァイオレット。」


こうして俺たちは、娘を見送った。


オリビアは体調が優れず、数日間入院することになった。

俺は毎日のように病院へ通った。

彼女を車椅子に乗せてそっと外に出し、風に当てながら、言葉少なに寄り添った。

だが、俺たちはわかっていた

どんな言葉も俺たちを慰められはしないということを。

そして、ついに悟った。

もう俺たちは、地獄から抜け出せないのだと。




————


4か月後、俺たちは同じ場所へ戻ってきた。

あれほど逃げ出したかった場所へ。


俺は車の中でオリビアを待っていた。

窓の外では、ぼんやりとした街灯の光だけがかすかに瞬いていた。

ドアが開き、オリビアが助手席に乗り込み、深いため息をついた。

俺は彼女の頬に短くキスをした。

だが、彼女は何の反応も示さなかった。


「うまくいったか?」


俺は何気なく尋ねた。


「同じよ。」


彼女は疲れ切った目でぼんやりと窓の外を見つめながら、

ポケットから金を取り出し、俺に差し出した。


200ドル。


「あと30分だけって。追加で50ドルくれるってさ。」


俺は返事もせずにうなずいた。


彼女は再びドアを開けて外へ出ていった。

暗闇に消えていくその背中を見送りながら、

俺は何の感情も抱かなかった。


昔なら止めただろうか?

いや、もしかしたらその時点で既に気づいていたのかもしれない。

俺たちはもう普通の恋人ではなかった。

ただ同じ穴に落ち、もがき苦しむ二匹の獣にすぎなかった。


俺はドラッグを手に入れて家へ戻った。


「ただいま。」


オリビアはソファに座っていた。

彼女は俺がこっそりドラッグをやってきたことに気づいたようだった。


「クソ野郎。」


俺は思わず鼻で笑った。


「何がおかしいの?」


「一体何を考えてるのよ?」


「ちょっとサッと一発やっただけだ。」


「どこで?」


彼女は身を起こし、俺に歩み寄ってきた。


「公園で。ジェイクに会っただろ。」


「ジェイクも一緒にやったの?」


「いや、ブツだけ渡して帰った。」


「それでもジェイクは恋人の心配はするんだ。あんたとは違ってね。」


俺はため息をつき、肩をすくめた。


「アイツはディーラーだろ。トイレでドラッグやる理由なんかないさ。」


その瞬間、彼女の手が俺の頬を強く打った。


「じゃあ、あんたは何者なの?」


俺は殴られても何も言わなかった。

正直、もう殴られるのにも慣れてしまっていた。


「わかった。俺が悪かった。ごめん。」


「もういい。ドラッグを出しなさい。」


俺はポケットからバッグを取り出して差し出した。

彼女はそれを奪い取るように引ったくった。

過敏になった彼女の仕草に苛立ちを覚えたが、

同じ穴の狢である俺が何を言えるだろうか。


「一体何が問題なの?」


彼女はソファに腰を下ろし、注射器を準備しながら嘲笑した。


「お前が問題なんだ。クズみたいなお前が。」


俺は何も言い返さなかった。

もう疲れていた。


夜になった。

俺はソファに座り、ポップコーンをつまみながらテレビを見ていた。

オリビアは自分の絵の具を一つずつゴミ箱へ投げ入れていた。


「マイケル。」


彼女の声に視線を向ける。


「こんなことばかりしてたら、絵を描く時間がなくなるよ。」


俺は気にしないふうに応えた。


「はあ、オリビア。喧嘩するなよ。今日一体どうしたんだ?」


「分かってるの? 今の私の気持ちが?」


「また始まったな。」


彼女は突然近づき、テレビの電源を切った。


「私が何をしてるか分かってるの? よく聞きなさい! 私が何をしてるか知ってる? 恐ろしい人たちとベッドで転げ回ってるのよ。」


俺は彼女を見つめた。


「やめよう。」


「何をやめるっての! どうするつもりなの?」


「辞めればいい。売春なんてやめちまえ。」


彼女は皮肉っぽく笑った。


「じゃあ薬はどうするの? 金が稼げなきゃ薬はどうやって手に入れるっていうのよ!」


俺は深くため息をつき、頭を抱えた。


「頼むよ、オリビア……」


彼女は突然、嘲るように笑った。


「今度はあんたが体でも売ってみたら? あんたが稼いで来なさいよ。」


苛立ちが込み上げてきた。


「無理なの分かってるだろ。それに性病でも移ったら危険だ。」


「笑わせるわね。あんたも女に金もらってやればいいじゃない。コンドーム使えばうつらないでしょ。」


俺はもう何も言わなかった。

彼女も呆れたのか、代わりに煙草に火をつけた。


――明け方。

オリビアは先にベッドに横たわり、俺はまだテレビを見ていた。


「寝るんだからテレビ消して。」


「音量下げるよ。すぐ終わるから。」


「はあ……お願いだから消して。」


「音、大きくないだろ。」


彼女は突然、布団を蹴飛ばして起き上がった。


「その周波数の音がうるさくて眠れないって言ってんの!」


俺は呆れた顔で彼女を見つめた。


「それはさすがに無理あるだろ?」


その瞬間、彼女は灰皿を掴み取った。


「クソッたれのテレビ、消せって言ってんだ!」


ガンッ!


灰皿が俺の額に直撃した。

俺はそのまま床に崩れ落ちた。


「な、何だと!」


額から熱い液体が流れ落ちた。

血だった。

オリビアは一瞬慌てたように駆け寄り、俺の顔に触れた。


「やだ……ごめん……」


俺は床に座り、血を流しながら笑った。

本当に滑稽な状況だった。

俺たちはもう、お互いを殴り、血を流させる関係になってしまった。


これが愛なのか?

それとも、とっくに終わっていたものなのか。

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