空に流す
七瀬ソラが考案したのは、「定命記念式典」への侵入だった。
これは定命制度が施行された日を祝う、国家主導の年次行事。
全国民への強制視聴義務があり、各家庭・学校・施設・端末は自動的に接続される。
つまり、
この放送に“真実”を乗せることができれば──全国民の目に触れる。
「映像への侵入はできるの?」
「正面からじゃ無理。でも式典映像の一部は、事前収録された“地方祝辞”からの切替方式。
その間の3.7秒、映像に空白ができる。
そこに“割り込みブリッジ”を叩き込めば、一時的に全ネットワークをハイジャックできる」
「3.7秒……それで足りる?」
「足りる。
1秒あれば、人は“知らなかった自分”に気づく。
あとは火が勝手に燃え広がる」
彼らは準備を始めた。
ソラが集めた内部データ、森崎が残した証拠、ユウが盗んだ国家記録。
それらをすべて、4.8秒の暗号化映像に凝縮する。
音声は義道の最後の言葉。
映像は実行処理室の映像、延命スコア一覧、通知書とその焼却指令、
そして最後に──ユウとソラ自身の顔。
「これは、私たちの告発だ」
実行日は、式典当日。
場所は、送信中継施設:中央電波塔第七基地。
それは国家の放送システムの心臓だった。
だがそこには、すでに国家公安の「特別措置班」が配置されていた。
「七瀬ソラと加瀬ユウ、両名の排除を正式に許可する。
現場での生存確認は不要。
この国は、“死を守ることで平和を維持している”。
ノイズは排除しろ。」
女官僚は冷酷に命じた。
ユウとソラの計画が成功すれば、制度は崩壊を始める。
だが、国家はそれを絶対に許さない。
決行の日は、目前に迫っていた。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。