記録と火種
定命法の矛盾を暴露した投稿は、24時間で再投稿・転載を含めて100万件以上のアクセスを記録した。
だが、SNSのトレンドには一切現れない。
表向きには、何も起こっていないことになっていた。
政府は情報の拡散経路を片っ端から遮断し、投稿元のアカウントを“自死による削除”と偽って抹消していく。
「彼らは“消した事実”を真実として書き換える」
ユウは、それを身をもって知ることになった。
翌朝、彼の通う高校で“偶然”が起きた。
放課後、教室の前で公安局の職員を名乗る二人組が待っていた。
黒のスーツ、国家徽章。
「家庭環境に関する調査」と言いながら、彼の端末を“紛失物の照合”として提出させられた。
だがその目は、明らかに“監視対象”を見るものだった。
校舎の裏へと逃れるように移動したユウに、声をかけてきた人物がいた。
「逃げるのは下手ね。もっと堂々と歩きなさいよ。
“真実を知ってる”やつは、そんな顔しちゃダメ。」
振り返ると、そこには白いイヤホンをつけた少女が立っていた。
短めのボブヘアに、濃い青のスカート。
見た目はただの高校生──だがその目は違った。
「私は七瀬ソラ。KATASTROPHEの管理者の一人。
……“火種”になってくれて、ありがとう。」
ユウは驚く。
彼女がKATASTROPHEに関わっているという事実もだが、
“誰かが見ていた”ということが、胸の奥でかすかな希望に変わった。
「君も、制度に疑問を?」
「疑問なんてとっくに越えてる。
私は“この国を終わらせる側”の人間よ。」
ソラは、冷たく言った。
その声音には憎悪と覚悟が混ざっていた。
だがそのとき、遠くからサイレン音が響く。
市街地の一角で「不審火」──と報道された火災が発生していた。
燃えたのは、森崎義道のアジトだった。
「……始まったわね」
ソラは吐き捨てた。
「国家が“記録を消し始める”ってことは、
君の暴露が──効いたってことよ」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。