表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定命の国  作者:
7/19

遺された音声

燃え上がる旧工場を遠巻きに見ながら、ユウとソラは人気のない地下通路へ逃げ込んだ。

サイレンの音は不自然なほど早く、そして正確だった。

明らかに「処理」を目的としたものだった。


ソラはポケットから1つのオーディオデバイスを取り出す。

焦げ跡がついていたが、かろうじて機能している。


「これ、義道が私に残してた“保険”よ。あの人は、焼かれることも読んでた。」


ユウは黙って受け取った。


音声ファイルを再生する。


「ユウ、もしこれを聞いているなら、私はもう消されているだろう。

……だがそれでいい。情報はすでに広がり、君の中に“火”が灯った。

ソラには過去がある。制度に奪われたものがある。

彼女の怒りと痛みを知り、共に進んでやってくれ。」


「もう一度言おう。

この制度の本質は、“管理された死”ではない。

**“管理された希望”**なんだ。

国家が、生きる意味を管理する社会。それが本当の正体だ。」


音声はそこで切れた。

ユウは、知らず拳を握っていた。


「……君の過去、聞いていいか?」


ソラは一瞬だけ、視線を下げた。

だが次の瞬間、真っすぐにユウを見返した。


~~~~


ソラの母は国立大学で倫理学を教えていた。

だが、彼女は公の場で「定命制度は人間の尊厳を破壊する」と発言した。


その数日後──**“定命通知の誤配”**という名目で母に通知が届き、

抗議も虚しく処理された。


当時、母は67歳だった。


「父は黙ってた。教師仲間も、友人も……

皆“仕方ない”って言った。

でも、そんな死に方、あるわけないじゃない。」


「それからずっと、私は記録を集め続けた。

この国の“合理的殺人”の痕跡を、ね。」


ユウは、ソラの怒りにうなずいた。


「……やろう。君と一緒に。

俺は、こんな死を“仕方ない”とは思わない。」

この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ