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定命の国  作者:
4/19

死を拒む者

翌日。

ユウは下校途中、一本の古びた裏路地に足を踏み入れた。

都市の再整備から外れたこの一帯は、定命法施行後に急速に「不要な場所」となったエリアだった。

今では誰も近づかない。──“死を拒んだ者”が潜んでいると噂されているからだ。


だが、ユウにはもう恐怖よりも確信が勝っていた。


USBに記されていたファイルの中に、定命通知未確認者としてリストされていた1人の名前がある。

森崎もりさき 義道よしみち

元・中央技術庁の主任研究員。77歳。

EVB未発行、通知済、未執行。


死んでいるはずの男が、まだ生きている。


ガレージ跡のような建物の扉を叩くと、内側から警告音が鳴り、インターホンが作動した。


「このドアを叩いた理由を言え。」


ユウは一呼吸置き、はっきりと口を開いた。


「あなたの延命スコアは、62でした。

でも、ビザは発行されていない。──なぜですか?」


しばしの沈黙の後、ガチリという電子ロックの外れる音が響いた。


「……入れ。」


中は廃工場をそのまま改造した居住スペースだった。

無数の古いモニターと端末、書類、そして散らかったカプセル型の食糧パック。


椅子に腰かけていたのは、白髪で鋭い目を持つ老人だった。

顔に刻まれた皺は、単なる老いではない。怒りと覚悟の時間が刻んだものだった。


「延命スコア? あんなもん、死刑判決と変わらんよ。

数字一つで“生きる価値があるかどうか”決まる世界さ。」


森崎はウイスキーの入ったグラスを傾けた。


「制度に反抗する人間が、この国では“欠陥品”になる。

お前も、そうだろ?」


ユウは静かにうなずいた。


「知りたいんだ。

この制度が、どうしてこうなったのか。

そして……どう終わらせればいいのか。」


老人はしばしユウを見つめ、そして笑った。


「やれやれ……久しぶりだな、“生きてる目”をしたやつを見るのは。」

この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

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