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定命の国  作者:
3/19

死の選別

部屋の灯りを最小限に落とし、ユウはノート端末を開いた。

窓はすべて遮光フィルムで覆われている。

この国で「定命法」に疑問を持つ者は、密告される対象だ。

たとえ高校生であっても。


USBを差し込むと、パスコードを要求するウィンドウが立ち上がった。

メモリには一言だけ書かれたテキストファイルが残っていた。


【ヒント:定命初年度に執行された数】


彼は即座に公的記録からその数値を引き出す。

「9,432,771」


パスコードを入力すると、音もなくファイル群が展開された。


中にあったのは、政府の内部資料らしきPDF、音声記録、映像ログ、そして一連のメールログだった。


ユウは最初に【priority_internal.xlsx】というファイルを開いた。

そこには国民の名前、職業、年齢、健康状態、そして──


**「延命スコア」**という謎の数値が記載されていた。


一部の人物には【EVB発行済】と記されている。

彼が聞いた“延命ビザ”の略称だ。


スコアの高い人間には一つの共通点があった。


政治家の家族


財界の幹部


国策に貢献する技術者


メディア関係者の血縁


──つまり、“価値がある”と判断された人間たち。


制度は平等ではなかった。

生きていい人間は選ばれていた。


次に再生したのは、政府内部の音声ログだった。

聞こえてきたのは、男の低く太い声だった。


「我々は“死を平等に与えた”などとは一度も言っていない。

民衆が勝手にそう思い込んでくれたおかげで、秩序が保たれているに過ぎない。

絶対的な平等は、最も強い支配の道具になる──」


ユウの中で、何かがはっきりと崩れた。


この制度は正義の皮をかぶった優生思想だ。

社会のためではない。秩序のための犠牲だったのだ。


彼は手を止め、窓の外を見た。


空は青い。

通学路では子どもたちが笑い、老人たちは消え、街は静かだった。


それでもこれは“平和”と呼べるのか?



この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

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