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定命の国  作者:
2/19

静かな異物

「お前の親父、いつだっけ?」


「来月末だよ。68だったけど、糖尿と腎臓やられててな。

“非生産判定”出たらしい。…早かったよ、通知が。」


「そうか…。まあ、本人も納得してるだろ?」


「うん…。たぶん。」


その会話を、加瀬ユウは教室の隅で聞いていた。

誰も彼には話しかけない。彼自身も話しかけられたいと思っていない。


彼は17歳。

特に目立つわけではない。

ただ一つ、決定的に他と違っていたのは、“定命制度に疑問を持っている”ことだった。


それを声に出したことは一度もない。

そんなことを言えば、「未来の敵」としてマークされる。


だが彼は知っている。

この制度には、ほころびがある。

この国は、静かに、合理の名の下に狂っている。


ユウは教室を抜け出し、いつもの場所へ向かった。

それは学校の裏手にある小さな公園。

ここなら誰の目も気にせず、思考に没頭できる。


彼の頭の中には、昨日見つけたデータが何度も浮かんでいた。

「定命法」施行以来、国家は毎年の死亡者数を完璧に管理しているはずだった。

だが、厚生省の公式データには不可解なズレがあった。


一部の70歳以上の人口が、謎の形で統計に含まれていなかった。

「延命ビザ」という秘密の制度が存在し、選ばれた者だけが延命されている——

それは都市伝説ではなく、実際に存在する裏社会の話だと彼は耳にした。


もしそれが本当なら、制度は完全な公平ではない。

社会は、明確な格差を隠し、嘘の理想を繕っているのだ。


ユウはスマートフォンを取り出し、暗号化されたメッセージアプリを開いた。

そこには、匿名の協力者からの一通のメッセージが届いていた。


【匿名】

「本当に知りたいなら、明日の夜9時、旧工場跡地の東門前に来い。資料を渡す。」


ユウは一瞬ためらったが、決意を固めて返信した。

「わかった。行く。」


公園の風が冷たく頬を撫でる。

彼はその夜、未来のために、初めて国家の闇に足を踏み入れることになるのだった。


夜9時。

旧工場跡地の東門は、錆びついた鉄の柵に覆われ、薄暗い街灯がぼんやりとその姿を照らしていた。


ユウは息を潜めながら、人影を探した。

やがて、薄黒いコートを羽織った人物が、影の中から静かに現れた。


「来たか」

低い声が響く。


「はい。情報を聞きたい。」


「この国は嘘でできている。定命法は表の顔に過ぎない。

実際には“選ばれた者”だけが延命される仕組みがある。

これは国家の秘密だ。知られれば混乱を招く。」


人物は小さなUSBドライブを差し出した。

「これに、その証拠が詰まっている。」


ユウはそれを受け取ると、震える手で握りしめた。


「どうして俺に?」

問いかける。


「お前は、疑問を持った。

それだけで十分だ。未来は疑問を持つ者が創る。」


背後で遠くの街灯がちらつき、冷たい夜風が二人を包み込んだ。



この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

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