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定命の国  作者:
16/19

葬送の朝

決行日。午前4時。


東京の街は静まり返っていた。

だがその沈黙の奥で、国全体の神経が研ぎ澄まされているのがわかる。


空にはドローン式監視機が旋回し、

主要な交差点には“式典警備”を名目とした機動隊が配置されていた。


その一方で、政府は突然の発表を行った。


「本年度の定命式典は“静粛な形式”で実施するため、

国民への中継は取りやめとする。映像記録は後日アーカイブにて提供予定」


それは明らかに、ソラたちの放送挿入を恐れての措置だった。


 


KATASTROPHEチームは、東京都内に点在する旧型放送中継所を利用した、

“電波ジャック”作戦を始動していた。


ユウとカズキ:江東区旧放送管理局ビル


アカリとセイゴ:多摩送信塔跡地


ソラ:国会裏手の地下分岐局


藤堂:バックアップ転送地点にて待機


目標は同時挿入。1秒でもずれれば、国家側のフィルタリングが発動し失敗する。


そして各地点には、それぞれΦ群の影が迫っていた。


 


■ 決断できなかった者

多摩送信塔跡地。

アカリが中継機材をセットしている最中、セイゴが静かに呟いた。


「……アカリ、さ。もしこれ、成功しても……

国が壊れて、社会が混乱して、戦争みたいになったら……どうする?」


アカリは手を止めることなく答えた。


「だったら、また作ればいい。

でも“誰かが殺され続ける国”はもう、いらない」


セイゴはうなずいた──ように見えたが、

その手は、配線ケーブルをほんの数ミリ、外していた。


 


地下分岐局。

数十年前に廃止された放送系統の“バックドア”。

今もわずかに使える信号帯を、カズキが解析して見つけ出した。


そこにソラは一人で入る。


不思議と、怖くなかった。

もう自分は、「選ばれる側」ではなく「選ぶ側」にいるのだと思えた。


装置の前で、録音データを確認する。

だが──その瞬間、機材が一瞬だけブレた。


「……え?」


表示される一行のエラー。


信号受信側に不整合が発生しました


誰かが、タイミングをずらした。


 


■ ソラの決断

混乱する頭を、強引に切り替える。


「……なら、リアルタイムで“私が語る”」


録音ではなく、生の声を全国に送る。

わずかな時間、わずかな帯域。

でも、それでいい。

“誰か一人にでも届けば、それでいい。”


彼女は、マイクのスイッチを押した。


 


画面が突然、白黒に切り替わる。


テレビ、スマホ、駅の電光掲示板。

すべてのスクリーンに、ひとりの少女の姿が映る。


 


「こんにちは、七瀬ソラです。

私は、あと数分で“国家に殺される”予定の人間です。」


 


街が止まる。

通勤者がスマホを取り出す。

老人がテレビに顔を近づける。


 


「あなたは、“誰かが決めた死”を受け入れられますか?

70歳だから死ぬ? 決められたから死ぬ?

それって、命じゃない。


命って、本当は、“自分で選べるもの”なんです。」


 


彼女の声は震えていなかった。

言葉は、全て、真っ直ぐだった。


 


「私の母は、自分で死を選ばされました。

私は、選べなかった。

だから、私は、あなたに問いかけたい。


“あなたの死を、国家に任せますか?”

それとも──

“あなたの生を、あなた自身で選びますか?”」


 


数秒後、画面がブラックアウトした。


 


放送後、数十万のSNSアカウントが「#自分で生きる」と投稿。


一部の若者が役所に押しかけ、通知撤回を要求。

年配者の中にも、「生きていたい」と告げる者が現れ始めた。


ソラの姿は、それ以来、誰にも見つかっていない。


だが──彼女の声は、確かにこの国に“火”をつけたのだった。

この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

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