無声の刃
廃ビルの深夜、監視端末の光がひとつ、ふたつと消えていった。
通信遮断、無線妨害、そして電子ロックの非常解錠。
静かに、確実に、“死”が足音を立てずに迫ってくる。
「セキュリティ、落ちた……?」
カズキがモニターを睨みながら言った。
アカリが即座に答える。
「いや、違う。これは“落ちた”んじゃない。誰かが落としたのよ。」
その瞬間、警報も鳴らぬまま、廊下の非常扉が静かに開いた。
──Φ群、侵入。
真っ黒な防弾スーツに身を包み、声帯遮断装置をつけた抹消部隊が、
機械のような動きで一人、また一人とビル内に侵入する。
通信手段はアイコンタクトと指の動きだけ。
完全な“沈黙の殺し屋”たち。
目的はただひとつ──七瀬ソラの抹消。
他の者については「事故死として処理可能」。
セイゴがいち早く侵入に気づいた。
「ッ、来やがったな……!」
愛用の分解式電動ピストルを手に取り、
階段の下から上がってくるΦ群の一人へ向けて照準を合わせる。
しかし──
「……チッ、避けたか」
相手は読んでいた。死角を一つも踏まない訓練通りの動き。
アカリとソラは、カズキを守る形で制御室へ後退。
作戦データと告発映像、すべてがここに集まっている。
「今、ここで壊されたら終わりよ!」
「大丈夫、送信装置の予備ルートは確保してある……でも時間が要る」
そのとき。
「下がれ、ソラ!」
ユウが叫び、Φ群の一人に飛びかかる。
手にしたのは鉄パイプ──丸腰に等しい武器だった。
だがその眼は、確かに覚悟を帯びていた。
「逃げてるだけじゃ、何も変わらない……!」
襲撃者がナイフを抜く。
一瞬のうちに間合いを詰められる。
次の瞬間、ユウの頬に鮮烈な切り傷。
それでも、踏みとどまった。
自分の体で、ソラを守った。
彼の叫びが空気を裂く。
「“選ぶ生”を、俺たちに返せ──!!」
その言葉に、ソラの表情が動いた。
「ユウ……」
彼女は迷いなく背後の緊急装置を作動させる。
──ブォン、と音を立てて遮断壁が降りた。
Φ群の半数が分断される。
作戦本部は辛うじて守られた。
襲撃を受けた犠牲として、アカリが軽傷、ユウは顔に深い傷を負った。
「……生きてるって、痛いんだな」
彼は笑った。血の滲んだ顔で、まっすぐにソラを見る。
「だからこそ、生きるって意味があるのかもな」
ソラは、その手をしっかりと取った。
「ありがとう。私は、絶対にもう負けない。
私の死を“国家の計画”になんか、使わせない」
Φ群は撤退。だが“次”はもっと大きく、もっと確実に来る。
国家は、この計画の“最終段階”に入っていた。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。