通知者
決行日まで、残り4日。
作戦本部の空気は、目に見えない“ひび割れ”を抱えていた。
藤堂ミツルの突然の登場と、義道の手書きノート。
その内容自体は矛盾がなかった。
義道が残した思想は、ソラの考えと完全に一致していたし、
ユウもその理念に強く共鳴していた。
──だが、綺麗すぎることが不自然だった。
沈黙の天才カズキは、藤堂の公務員証と行動ログを独自に解析していた。
義道が焼かれた時間帯、彼のGPSログは“通信遮断エリア”にあった。
だがそれは国家の公安職員に限定された帯域でもあった。
つまり、
「“追放された記録局職員”が、なぜ国家専用帯域にアクセスできたのか?」
矛盾が、静かに浮かび上がっていた。
それでも藤堂はチーム内で自然に振る舞っていた。
技術にも精通しており、義道と過去にやり取りしていた電子記録も本物だった。
アカリもセイゴも口には出さなかったが、
「信用できないが、利用できる」という一致した了解がそこにあった。
その夜、作戦本部に届いた一本の封書。
一般郵送とは違い、国家からの“個別特急”ルートで届いたそれには、
差出人の記録が存在しなかった。
中身は一枚の紙。
『七瀬ソラ 様
本状を以て、あなたに対し
定命制度適用者としての登録が完了したことを通知いたします。
登録日:令和X年X月X日
処理日:式典当日
国家総務局 定命執行管理課』
部屋の空気が止まる。
「……これ、式典の日。つまり、私が“処理対象”にされたってこと?」
ユウはすぐさま立ち上がる。「……ふざけてるのか」
「いや、わかってる。これは“警告”よ。
──“放送に割り込めば、その場で処理する”っていうね」
それは、制度にとって象徴的な警告だった。
“制度を否定する者は、その制度によって粛清される”という、見せしめ。
「……あいつら、ここまでやんのか……」
「いや、“ここまで”やるから、国家なんだよ」
アカリの冷静な言葉に、誰も反論できなかった。
それでも動く理由
その夜、ユウはソラとふたりだけで屋上にいた。
「……怖くないのか?」
「怖いよ。でもね……私は、もう死んでるのよ。
あの夜、母さんを“誤通知”で殺された時から」
彼女の瞳は静かに燃えていた。
「だったら最後くらい、自分の意思で生きたいじゃない。
“生きてるうちに、誰かの未来を変える”って、思ってみたいの」
ユウはその言葉を、黙って受け止めた。
そして──初めて、彼女の手を取った。
国家の対応強化
同時刻、国家公安庁では新たな指令が下されていた。
「作戦決行の前に、彼らを“事故”として処理せよ。
とくに七瀬ソラ──告発者の象徴化を避けるため、
記録を残さず消去せよ。」
コードネーム:“無声の執行”
担当部隊:公安特別課・抹消班《Φ群》
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。