表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定命の国  作者:
12/19

影の中に

廃ビル、午前2時。

地下の作戦室では、アカリが拡張計画のリスト整理を、カズキがネットワークの遮断ポイントを再設計していた。

ソラは眠らず、壁の監視カメラを何度も確認していた。


ユウは非常階段でひとり、缶コーヒーを片手に冷たい夜風にあたっていた。

そのとき、階下で微かな音を聞いた。


──キィ……ガチン……


金属音。ドアロックが外れた音。


直感が叫んだ。

「……誰かいる」


ユウが急いで戻ると、すでにソラが動いていた。

彼女は廃ビルの構造を熟知している。最短経路で音の元へ向かう。


地下三階。旧エレベーターピット。


扉がわずかに開き、黒い影が中に滑り込むのが見えた。

ソラは一瞬、呼吸を止め、拳銃型の非殺傷スタンガンを構える。


「出てきなさい。……味方なら今すぐ身分を明かして」


沈黙。だが数秒後、スピーカーから音声が返ってきた。


「……侵入じゃない。俺は“残された者”だ。」


姿を現したのは、30代後半の男だった。

黒い作業着、手には古い国家公務員証。


「藤堂ミツル」──元・国家中央記録局所属

過去に“情報改ざん拒否”で追放された記録技術者だった。


「俺は義道の仲間だった。

あの焼かれた部屋に、最後までいた。……でも、恐怖に負けた。逃げたんだ。」


彼の手には、焼け残った**義道の“手書きのノート”**があった。


義道の遺稿:“境界の思想”

ノートには、義道の言葉が綴られていた。


『我々は、どこまでを「人間」と呼ぶのか。

年齢か、能力か、それとも国家が定める価値か。

定命制度は、その問いから目を逸らすためのシステムだ。

「年を取ったから死ぬべき」という論理は、“人間の終わり”ではなく、

**“国家による定義の始まり”**を意味している。』


そして、ページの最後に記されていた一文。


「人間が、国家を選ぶ最後の瞬間は、死を拒否する時だ」


ユウはその一文を読み、拳を握った。


「……“国家に殺されること”に、慣れてはいけない。

選ばれる死じゃなく、“自分で選ぶ生”を取り戻すために、俺たちはやるんだよな」


ソラは無言でうなずいた。


だが、仲間の中に──藤堂の言動に疑念を抱く者もいた。


セイゴは怪訝な表情で呟く。

「……あいつ、義道が焼かれた時に“最後までいた”とか言ってたよな。

普通、あんな火の中で生き残れねぇだろ。

それに、持ってきたノート、どうしてそんなに綺麗なんだ?」


アカリは慎重に言葉を選ぶ。


「……つまり、内部からの工作員の可能性があるってこと?」


「わからねぇ。でも、あいつは“何かを隠してる”気がする」

この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ