声を束ねる
決行日まで、残り5日。
廃ビルの地下にある元印刷室──そこが彼らの“作戦本部”になった。
コンクリ壁には古い記事の断片、監視カメラの死角マップ、ネット構造図が貼られ、
まるで旧世紀のレジスタンスのようだった。
そこに一人、また一人と加わっていく。
【柊アカリ】
「私は“命の終わらせ方”を学んできた。でも、これは医療じゃない。ただの処分よ。」
アカリは国家指定医療大学に首席合格した逸材だった。
だが祖母の通知に逆らえず、処理に立ち会わされた夜から、彼女の世界は変わった。
「あの時、私は“生かす医者”から、“殺しを補助する係”にされたの。」
それ以来、彼女は匿名で制度批判を投稿し続けていた。
今、顔を出してでも動こうと決めたのは──「黙ってたら、また次を殺すから」。
【葉山セイゴ】
配送業の合間、彼は通知の“異常”に気づいた。
父の処理通知書の発行日が、“誕生日より3日早い”。
つまり、まだ69歳だった。
「間違えたのか? それとも、試してんのか?」
抗議すれば拘束され、黙れば父が殺される。
そのどちらも選ばず、彼は逃げた。そして今、武器ではなく“証拠”を選んだ。
【遠野カズキ】
カズキは言葉が少ない。
が、彼の持つ端末にはORPHEUSの管理層プロトコルが走っていた。
「これがオルフェウスの“心臓”だよ。
──今なら、国家の視覚と聴覚を、一時的に切り落とせる」
その瞬間、全員が彼の方を見た。
ソラは小さく笑った。
「……“神の目”を一度、潰すってことね」
だが国家も動いていた。
ある中学では、15歳の生徒が**「定命制度に関する自由研究」**を提出した翌日、
その家庭に“仮通知書”が届いた。
発行元は不明。だが、そこにははっきりと「この発言を公的に否定しなければ、家族の保護は保証されない」と書かれていた。
別の地区では、視聴中に「問題行動の多い世帯」にだけ、
突如「静かなアラーム音」が流れた。
それは──“次の対象”であることを、知らせる鐘だった。
「もう映像だけじゃダメ」
「制度に疑問を抱いた“市民の連鎖”が必要よ」
彼女が提案したのは、“告発放送”と同時に、各都市で小規模な蜂起を誘発する計画だった。
仕掛けは簡単。
すでにKATASTROPHE内で繋がっている数百人に「“死の不在証明”」を呼びかける。
──死んだはずの人物の生存記録を、全員一斉に提出させる。
それは、国家データベースにとって**最大の“否定”**となる。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。