兆しと共鳴
決行日まで、残り6日。
ユウとソラは、潜伏先を都内の廃ビルに移した。
そこはかつてリベラル系新聞社が入っていたが、数年前に「自主廃刊」していたという。
「本当に、自主だったのかは怪しいけどね」
ソラが皮肉混じりに言う。
彼らは、二人で動くには限界があると判断した。
映像の挿入、塔への潜入、データの保険ルート、陽動──
最低でも4名、できれば5名以上の協力者が必要だ。
「私には、“繋がれる奴”が3人いる」
ソラが口にしたのは、いずれも“制度を憎んだ過去”を持つ若者たちだった。
柊アカリ
祖母の定命処理に立ち会わされ、発狂。医学を捨て、匿名で制度批判を続ける。
葉山セイゴ
“通知ミス”で父親を失う。真相追及中に公安に拘束され、脱走。
遠野カズキ
国家監視AI“オルフェウス”に不正アクセスし、顔認証の抜け道を見つけた天才。
彼らはそれぞれバラバラに行動していたが、ユウの告発動画によって“目覚めていた”。
つまり今、共鳴しはじめていたのだ。
SNSには広がらない。報道にも出ない。
だが人々は確実に「違和感」を覚え始めていた。
「父が突然、通知もなく消えた」
「祖父の“70歳直前の失踪”が誰にも調査されない」
「投稿した制度批判の動画が、5分後に消された」
ある学校では、教師が「定命制度は人道的だ」と講義する中で、
一人の生徒がこう発言した。
「……でも、誰が“死に値する”って決めてるんですか?」
教室に沈黙が流れた。
その瞬間を、監視AIは記録した。
だが同時に、AIの“フィルターロジック”が初めてバグを吐いた。
そのバグは、やがて“感染”を始める。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。