97,名前
「ソフィア様を探しているとき、旧校舎で教えてもらったんです。名前を呼びあうような友達になりたいのに、理由があって意地悪してしまったと泣いていた女の子がいたって」
それって。
エリックの顔が思い浮かんだ。
まだエリックに出会ったばかりのころ。
大泣きしているときに、そんなことを言ったかも知れない。
「そのとき、寮や家の自室ではなく、旧校舎まで行って泣くのはどうしてだろうって、不思議に思ったんです。…でも、よく考えてみたら、そうなんですよね」
そっと、ティファニーちゃんは私の手を取った。
「学校ではいつも人に囲まれていて、例え自室でも、泣き声が外に漏れてしまったら、絶対に誰かが様子を見に来る。…とても身分の高い方ほど、一人きりになって秘密の理由で泣くことが出来ない」
…。
沈黙するのも、肯定したのと同じこと。
だけど、言い訳も思い付かない。
「…あの用務員か。その男が…?」
「っ、エリックは、本当に何もっ」
言いかけて、しまったと思った。
思わず、名前を出してしまった!
ティファニーちゃんが、慌てる私をなだめるように手を強く握った。
「エリック…? …あぁ、いたな。確か、時計塔の管理人の名前が、エリックだったはずだ」
ビクター様のその言葉に、一瞬、頭の中が真っ白になった。
「…管理人? そんなはずは」
あり得ない。だって、
「…それは、違うと思います」
「…エリック・スミスではないと? しかし、学校関係者にエリックと言う名の男は、他にはいなかったはずだ」
エリック・スミス
それは、会って二回目で名乗ってくれた名前だ。
でも、違う。
「だって、この時計塔の扉を開けられるのは、ティファニーちゃんだけなんです」
二人が目を丸くした。




