95,魔王様
「!」
突然吹いた風に驚いているうちに、魔王様が私の後ろから手を伸ばし、私の手首を掴んだ。
よく物語である、犯人と人質、みたいな構図だ。
「また、眠らされるのはごめんだ」
そのまま魔王様は、私が握っていた剣を奪い取る。
剣の重たさで腕が痺れてきていたから、簡単に魔王様の元に剣が渡ってしまった。
「どれだけの時間閉じ込められていたか…。あんな思いを繰り返すくらいなら、」
耳元で魔王様の切なそうな、呟く声が聴こえた。
剣と人質。
やけになった犯人。
最悪のパターンだ。
ビクター様の顔にも焦りが浮かんだ。
ただでさえ強い魔王様が、人質まで手に入れたら、どうなるか。
しかも、この人質に逃げる気が全くない。
「ま、魔王様。少し眠るだけです。ここで戦って討伐されるよりも、良いと思いませんか?」
ゲームの知識を総動員させる。
二周目の魔王様は、きちんと話せば優しい人だった。
「あなたは本当は、戦うことが嫌なんでしょう? そうゲームで…、いえ、私は知ってます。あなたのことや、この後起こること。未来を」
ゲームの知識とか、二周目とか説明出来ないから、そこを省略すると何だか預言者みたいなっ…。
まさかの魔王様との対話だ。
ここで二周目の知識が必要になると分かっていたら、もっと紙に書き出していたのに!
「ここにはもう、パトリシア様もロバート様もいません。あなたを倒そうとする人は、いません。あなたが大人しく眠ってくれれば」
「…っ」
魔王様が何か言いかけた。
でも、剣を下ろしてない。
私は、魔王様の声に被せるように言った。
「大丈夫です。絶対、目覚めます! その先にあるのは楽しい日々ですよ! 優しい子と出会えますし、猫になって日向ぼっこしたり、寝ぼけてマシュマロを…」
二周目がどうなるかはわからない。
でも、このまま討伐されるよりかは絶対良い!
だから説得するため、私は二周目に見た私の好きなシーンをあげていった。
目覚めたときに起こる可能性のある、幸せなこと。
マシュマロ編は一番のお気に入りだ。
「…やめろ」
魔王様が呟いて、後ずさった。
…確かに、本人にネタバレはだめだったかな。




