94,私の秘密
剣をゆっくりと持ち上げ、さっきの二人みたいに構えた。
それだけで、ちょっとよろけるのだから、私の攻撃力は皆無だろう。
それでも、私は剣を下ろすつもりはない。
「ビクター様、申し訳ありません。この方を王家に渡すのは、嫌です」
「…なぜだ?」
ビクター様は剣を構えるのをやめた。
でも、だからと言って魔王様を見逃してはくれないだろう。
早く説得しなくちゃ。
でも頭が真っ白で、全然言葉が出てこない。
「それは…」
王家に渡すのは、嫌だ。
だって、このまま渡してしまえば、魔王様は…。
想像しただけで、涙が溢れてきた。
「ソフィア…?」
ビクター様が私の名前を呼んだ。
ビクター様の前で、こんな風に泣いたことは無かったから、驚いたのだろう。
あぁ、泣いてる場合じゃない。
「…あの日、絨毯につまずいて転んだときにこの日のことを思い出したんです。それで…、ずっと…」
号泣してたら、うまい言葉なんて出てこない!!
私は深呼吸をした。
「…王子様ルートだけなんです」
魔法石が抜かれて、歯車が動かなくなった機械室は静かだった。
私はこの一年間、ずっと思ってきたことを言葉にした。
それは、誰にも…エリックにも言えなかった秘密。
「ほかの攻略者のルートは、討伐か滅亡だけ。でも、王子様ルートだけは、ティファニーちゃんが救国の乙女の力を使って、魔王様を再び眠らせることが出来るんです」
いぶかしげな二人の顔が怖い。
でも、言わなくちゃ。
私は心が折れないように、かつての友達の顔を思い浮かべた。
その子に言った言葉を、思い出す。
「そうすると、二周目をプレイすることが出来るんです。そして、隠しキャラである魔王様も攻略出来るようになる…」
他の攻略者では、魔王様はただ討伐され、消滅する。
でも王子様ルートだけは、パトリシア様と騎士様の過去を再現するっていう意味で、魔王様を再び眠らせることが出来るのだ。
そして二周目の扉が開かれ、魔王様を攻略出来るようになる。
…都合よく時間が巻き戻って、私が二周目に行けるとは思ってない。
でも、魔王様が生きてさえいてくれれば。
私が見れなくても、何百年後かの世界でまた救国の乙女が現れて、魔王様を助けてくれるかもしれない。
私は、その可能性にかけたかった。
「私、魔王様に生きていてほしいんです」
「…」
私の推し。
一番大事な人だから。
過去を思い出したとき、私はゲームの知識以外のことはほとんど覚えていなかった。
なんで、この世界に来たのか。
海辺でゲームをしていた女の子は、私の前世なのか。
でも、魔王様があの女の子の心の支えだったことだけは覚えている。
そんな大切な人を見捨てることなんて、出来ない。
私はこの一年間、魔王様を救うために、シナリオ通り悪役令嬢を演じてきた。
「…この方はパトリシア様が封じた魔王ですが、まだここでは何も悪いことはしてません。だから、討伐はしないでください」
国を滅ぼそうとしている魔王を倒すな、なんて、無茶なことを言っている自覚はある。
これが本当の私の願いだったって知られたら、エリックは私のことを幻滅するだろう。
彼はずっと、私が魔王を討伐すると思って協力してくれたのだから。
だから、この日のことをエリックには詳しく話せなかった。
それをエリックは、私が魔王様を討伐するのが嫌だからだと思っていたみたいだけど、本当は、討伐する気はなかったの…。
ずっとずっと、嘘をついてごまかしてた。
「騙していて、ごめんなさい…」
「ソフィア…?」
私は一度頭を振って、意識を目の前の二人に戻した。
早く説明しなくちゃ。
「…すみません。よく分からないですよね」
ここがゲームと同じ世界で、私にはその知識がある。
そんなことを説明している時間はない。
私は一度、深呼吸をした。
「後で、いくらでも説明します。この方を無力化するなら、私は、その方法を知ってます」
このまま捕縛して、城に連れていくより安全だ。
「…どうやって?」
ビクター様が聞く。
良かった。少しは、私の話を聞いてくれるつもりらしい。
「ティファニーちゃん」
「はいっ!」
私がティファニーちゃんの名前を告げると、元気良く返事をしてくれた。
それがとても頼もしかった。
「彼女の力を借りれば、出来ます」
「彼女が救国の乙女だから?」
「はい」
多分、ビクター様も薄々気付いているはずだ。彼女が魔法を使うと、虹がかかるのだから。
「…再び、封印する方法は…」
「ソフィア様!」
涙を拭って、私が説明しようとしたとき、突然風が吹いた。
「止めろ」
魔王様が、私の手首を掴んだ。




