90,魔法石
「ソフィア!」
「ソフィア様っ!」
私はスカートの裾を軽くつまむと、階段を掛け上った。
時計塔の高さはだいたい五階ぐらい? プラス地下分。
淑女だって、ダンスの練習でそれなりに鍛えているもの。
これくらいなら、駆け上がれるはずだ。
ティファニーちゃんをお手本に、引き留めようとする二人を振り返らずに、足を動かす。
ゲームで魔王様は、目覚めたばかりでふらふらだったので、手すりにつかまってゆっくりと上っていった。
その上、ちょっと頭が痛そう。
多分、ティファニーちゃんとパトリシア様を混同してしまっているせいなのだろう。
だから、十分に間に合う!!
後ろから、ティファニーちゃんとビクター様が私を呼ぶ声と足音がきこえてくるけれど、無視して私はひたすら階段を上った。
螺旋状の階段をかけ上ると、少し目が廻りそうになる。
足がガクガクとしてきた頃、やっと最上階についた。
「わっ」
そこは、歯車や鐘を鳴らすためのしかけなどがたくさんある機械室。
ゲームでは見てたけど、実際に見ると圧巻だ。
大きな歯車が噛み合い、規則的に動く。すると、連動して木の棒が動いて、そのとなりの装置を動かし…。
なんだか、エリックからもらった懐中時計を思い出す。
感動してる場合じゃなかった。
時計塔の装置の前に、魔王様が立っていた。
視線の先には、美しく大きな青い石。
時計塔の時計と鐘を動かすための動力源、魔法石だ。
封じられて長い年月が経ち、魔王様の魔力は完全ではないけれど、回復している。
それでも、魔王様がこの魔法石を求めたのは、これが魔王様の魔力を元に作られた物だからだ。
封じられた時に、一緒に失ってしまった記憶。
それをこの魔法石に触れることで取り戻そうとしているのだ。
魔王様が、手を伸ばすと魔法石を取り出した。
動力源がなくなり、歯車がゆっくりと動きを止める。
その光景に少し胸が痛むけれど、これでいい。
振り返りと、ティファニーちゃんは少し後ろ。
今、魔王様は、魔力と共に当時の記憶を得ている。
ゲームではセピア色だった場面。
無声映画のような作りだった。
泣いているパトリシア様に、魔王様に剣を突きつけるロバート様。人々の怒号に、砂嵐。
封じられた記憶を思い出すのは辛いだろうけれど、私は、ほんの一呼吸分待った。
「…」
魔法石からは記憶と一緒に魔力も得られてしまうので、これ以上は待てない。
私は、ティファニーちゃんの代わりに魔法石へと手を伸ばした。
私の気配に気付いた魔王様が振り返った。
「!」
魔王様が近い!
私は魔法石だけを見て、奪い取ることに集中した。
「ソフィア様!」
「!」
ティファニーちゃんの声に反応して、私を避けようとした魔王様の動きが止まる。
「…っ」
魔王様が頭を押さえた。
今だっ!
「ソフィア様、だめです!」
ティファニーちゃんではないただの人間が魔王から魔法石を奪ったら、どうなるか。
そんなこと考えている暇はなかった。
だって、決めたもの。
シナリオ通りにするって。




