89,空気になれてなかった
基本的に、ティファニーちゃんは素直な子だ。
目上の人や尊敬する人の教えには、素直に従う。
けど自分で考えて、おかしいと思うことにははっきりとそう伝えることもあるし、こっそりばれないように動くこともある。
今回で言えば、ハンカチを探すために、時計塔に入り込んだことがそれにあたる。
でも、ビクター様の身が危険なのは明らかなのに、何でここに来てシナリオと違うことを?
空気になっていた私が驚いていると、ティファニーちゃんは私に手を差し出した。
「ソフィア様! 行きましょう。…ビクター様、直ぐに先生に伝えて戻ってきますっ…」
「!」
ティファニーちゃんは、辛そうにビクター様に言った。
…つまりは私をここから連れ出すために、ティファニーちゃんは苦渋の決断を下したわけで!
「あぁ、頼む」
空気になれなかった私を、二人が見つめる。
「あっ…」
「ソフィア様、大丈夫です。今なら…」
ずっと、黙っていたのは怖かったからと思われてる!!!
「ソフィア」
ビクター様が、真剣な眼差しで私の名前を呼んだ。
「歩けるな?」
「ビクター様…」
魔王様に一瞬で倒され、頬には擦り傷が出来ていた。いつもきれいな制服も、汚れてしわくちゃだ。
それなのに、私の心配なんかして。
「ソフィア様。大丈夫です。何があっても、私が守りますから!」
あなたにどれだけ、意地悪しただろう。
大切なネックレスを捨てたし、ドレスも台無しにした。嫌みを言ったり、たくさんあなたを傷つけたのに。
あぁ。本当に、この人たちは…。
私は、泣きそうになるのをこらえた。
「…だめです」
「ソフィア。言うことを聞いてくれ。この騒動が終わったら、今度…」
!!!!?
「だめー!」
私は、思わずビクター様の口を手で塞いだ。
いつもお淑やかな公爵令嬢の力業に、ビクター様は目を丸くした。
だって、今のは絶対だめなやつだ。
このゲームのシナリオとかと関係なく、この世界、いや全世界共通で言っちゃだめなやつ。
「…」
地下室に、魔王様の足音が響く。
「…参りましょう」
この場をごまかす言葉は思い付かなかった。ティファニーちゃんも動いてくれそうにない。
ならば、私がアシストする!!!




