84,掃除中
エリックは、時計塔の近くの校舎の二階で掃除をしていた。
ここなら、時計塔がよく見える。
『大雪が降った次の日の朝、もしもワンコ先輩とハーリィとマックス。あとマナック・メーテルリンクが時計塔の近くにいたら、止めてほしい』
そのソフィアの願いを叶えるためだ。
おそらくは、今日がその日。
しんしんと雪が積もった。
もう少ししたら、雪かきをする必要があるだろう。
雪の勢いが収まったころ、時計塔に二人の男女がやって来た。
モーリス・コリンズとリンジー・コストナー。
ハンカチが飛ばされたらしく、困ったように見上げている。
窓を開けて様子をうかがっていると、声がした。
王子とアンブローズだ。
鍵、と聞こえたから、時計塔の鍵を探しに行ったのかもしれない。
二人が足早に去っていく。
大体は、ソフィアの話通りだ。
自分の役目は、もうすぐ終わる。
「しかし…」
時計塔に来るのは、王子とアンブローズ二人だけだったはずだ。
それなのになぜか、よく見慣れた銀髪の女子生徒の姿がある。
ソフィアの性格からして、気が変わったというのは考えにくい。
…何か異変が起こったか。
それとも、うっかり失敗したか。
今にも泣き出しそうな、ソフィアの顔が浮かぶ。
助けに行こうと、窓を閉めたときだった。
「おはようございます」
廊下の向こうから生徒が二人、やって来た。
「おはようございます」
なるべくにこやかに挨拶を返す。
早めに教室に来る生徒はいる。
静かな教室で予習復習をしたい生徒や恋人同士の生徒。
しかし、目の前にいるのは、ハーリィとクレアだ。
時計塔のそばではないが、この二人が時計塔の前にいる人物に気がついたら、直ぐにそちらに向かってしまうだろう。
これは、まずいな。
考えるエリックに、なぜか立ち去らない二人は言った。
「いつも掃除をしてくれて、ありがとうございます」
「いえ」
「今も掃除中ですか?」
「? えぇ」
ほうきを持っているのに、なぜそんなことを聞くのか。
首を傾げるとハーリィは笑った。
「本当は、誰かと待ち合わせをしているんじゃないのか?」
「?」
なんの話だろう。
時計塔を気にしつつ、二人の様子を伺う。
「…この学校のなかに、不審者がいるかもしれないと、生徒会長が調べていたんだ。俺たちはその手伝いをしている」
「不審者、ですか?」
ハーリィはクレアを自分の後ろに隠すようにして立った。
「あぁ。そいつが公爵令嬢を脅して、公爵家をおとしめようとしているんじゃないかって」
「…」
時計塔を見る。
相変わらず三人でいるようだ。
それで、ソフィアがあの二人に同行しているのか。
何かおかしな方向ではあるが、ソフィアの策略がどこかで露見したのだろう。
「…俺は、ただの用務員ですよ」
そう答えると、クレアが紙を取り出した。
「失礼ですが、お名前を教えていただけますか?」
「エリック・スミス」
その名を聞いて、紙を見る。
「…名簿にないわ」
「この学校の住み込みの人間の名簿一覧にないってことは、…やっぱり、侵入者なのか」
ハーリィの疑いの目が、濃くなった。
「おかしいな。あるはずですよ」
そう、間違いなくあるはずだ。
落ち着いた声で言うと、クレアが小さく声をあげた。
「あ、あった!」
「どれ。…本当だ。エリック・スミス。…時計塔管理人…?」
鐘が鳴り響いた。




