81,ハンカチ
時計塔の前ではリンジーちゃんとモーリスが、困ったように木の棒を持ちながら立ち尽くしていた。
一足早く向かったビクター様が、理由を聞いたようだ。うっすらと声が私たちのもとまで届いた。
「何か問題でもあったのか?」
まさかの生徒会長で王子様と言う大物の登場に恐縮する二人は、そっと時計塔を指している。
「すみません。僕のハンカチが飛ばされて、取ろうとしただけなんです」
時計塔の鉄の窓枠に、白いハンカチが引っ掛かっている。
三階部分くらいのところだ。
背伸びをしても取れないような高い場所。
もちろん、短い木の棒では届かない。
「目を離してしまうと、飛んで行ってしまいそうだったので…」
あれは、リンジーちゃんからのプレゼントだったはず。
ビクター様はうなずいた。
「なら俺が見ているから、君たちは職員室か事務室に行って、時計塔の鍵を借りてきてくれるか?」
「えぇっ? そんな、生徒会長のお手を煩わせることじゃ…」
「では、俺が鍵を借りてくるか」
「!」
豪華な二択だ。
追い付いた私たちを見て、二人は目を丸くした。
「ソフィア様! おはようございます」
「えぇ、おはよう」
「リンジー、どうしたの?」
ソフィアとティファニー。
あまりない組み合わせ、と言うよりも不安しかない組み合わせだ。
心配そうな顔をしながらも、リンジーちゃんは説明した。
「風でモーリスのハンカチが飛ばされて…」
「魔法で取れないかな」
ティファニーちゃんの提案に、二人は首を振った。
「やってみたけど、出来なかった。無理に引っ張ると、破けちゃいそうで」
見ると、ハンカチは窓枠の金具の部分に引っ掛かっている。
ハンカチは無地ではなく、丁寧な刺繍がされたものだ。引っ張る方向を間違えたら、刺繍糸がひきつれてだめになってしまう。
だから、なるべくそっと取りたいのだろう。
「やはり、時計塔のなかから取ったほうが良い」
ビクター様の声に、二人は頷いた。
「はい。申し訳ありませんが…」
「あぁ」
「リンジー、君は職員室に行ってくれるかい? 僕は事務室に行ってくる」
手分けしたほうが早い。
そして、万が一ハンカチがまた飛ばされてしまったときは、ビクター様が対処してくれる。
その役割分担で落ち着いたようだ。
うん。
第三関門もクリア。
すごく恐縮しながらも、リンジーちゃんとモーリスは、時計塔の鍵を求めて去っていった。
…この世に存在しない鍵を。




