80,第一段階と第二段階
基本的に、ソフィアの歩きはゆっくりだ。
道の真ん中を、クレアたちとおしゃべりしながら歩く。
他の人から見て、かなり邪魔。
でも、今日は違う。
なるべく早く、ロスした時間を取り戻せるように早歩き。
「ソフィア?」
時計塔に向かう道で、ビクター様が立っていた。
「まぁ! おはようございます」
ビクター様は、片手に剣を持っていた。
朝の鍛練の帰りだったのだろう。
鍛練に使うのはいつもは模擬刀だけど、今持っているのはあの鞘の感じからして真剣だ。
第一段階、クリア。
「どうして君が?」
ビクター様が私の背後を見る。
並んで歩いているのならまだしも、ティファニーちゃんは私を追うように来ているので、怪しさ満点だ。
「さぁ…」
これには、私も返答に困る。
でも、ここで悠長にお話しているわけにはいかない。
ふと気付くと、ティファニーちゃんはアイコンタクトのような感じで、ビクター様に何か合図を送っていた。
申し訳なさそうに、謝る仕草。
それに頷き返すビクター様。
「!」
まさか!
…ビクター様も、私の演技、知ってるの?
「ビクター様…」
思わず声に出すと、ビクター様は真剣な顔つきになった。
…確定…。
いつから?
ティファニーちゃんは、あの舞踏会のときに気付いたって言ってた。なら、あの一月のデートのときは、もう疑っていた?
あぁ、もう!
言い訳も、ごまかしも、何も思いつかない!
「ビクター様、申し訳ありませんわ。えっと、ちょっと用事が…」
ここからは、まだ時計塔からちょっと遠い。
歩き出す私に、ビクター様は言った。
「ソフィア、どんな用事か訊いても?」
「えぇっと…」
私を先頭に、ビクター様、ティファニーちゃん。
かなりおかしな光景で、昼間だったらかなりの衆目を集めただろう。
でも、まだ早朝。
こんな寒い日の朝に、外にいるのは…。
「モーリス! 危ないよ!!」
私たち以外には、仲良しな恋人たちだけだ。
「今の声は…」
みんなのお手本になるべきと教育されてきた王子であり、生徒会長でもあるビクター様はその声にいち早く反応した。
一瞬ソフィアを見てから、声のしたほう、つまりは時計塔に向かう。
良かった。
第二段階もクリア。
ティファニーちゃんもまた、友人であるリンジーちゃんの声に反応している。
うん。
これで、悪役令嬢はフェードアウトしたいけど、多分、無理だよね…。
「…」
私もまた、時計塔に向かった。




