78,静かな朝
静かな朝だった。
窓から見た外は、一面銀世界。
ゆっくりと綿のような雪が振っている様を、私は眺めた。
早起きの生徒がつけた足跡すら、また雪に覆われる。
雪が止んだころ、私は宝石箱にしまっていた懐中時計を取り出して、ネジを巻いた。
「…」
いつもは壊すのが怖くて持ち歩いてなかったけど、今日は持っていこうかな。
でも…。
一度、懐中時計の表面を撫でてから宝石箱にしまった。
やっぱり、今日は持っていけない。
私は、部屋を出た。
朝の六時。
いつも早起きなティファニーちゃんは、この大雪で理科部の動物たちが寒がってないか心配になって、寮の鍵が開けられたと同時に飼育小屋へと様子を見に行く。
そこで偶然、鍛練帰りのビクター様に出会うのだ。
もうそろそろかな。
邪魔はしないけど、今日は二人の様子を見ておきたい。
私は時計塔へと向かうため、寮の玄関へとやって来た。
まだみんな寝ている時間だ。
静まり返った玄関口。誰かに見つかってはいけないと、なるべく物音を立てないようにそっと歩く。
まだ暖房もつけられていないので、はく息が白かった。
「…ソフィア様」
「!?」
息を潜めて寮から出ていこうとした私を、誰かが呼び止めた。
と言うか、この声は…!
「あなた…」
いつの間にか私の背後にいたのは、ここにいないはずのティファニーちゃんだった。
「おはようございます」
ティファニーちゃんは硬い表情で立っていた。
なんで、ここにいるの。
この時間は、もう外にいるはずで。
まさか、日付を間違えた?
二月の大雪が降った日。
それは、今日のことじゃなかったの?
混乱する私に、ティファニーちゃんは言った。
「あの…」
少し言い淀んでから、ティファニーちゃんは決心したように私の目をしっかりと見た。
「ソフィア様。何か、お困りではありませんか?」
きれいな七色の瞳が私を映す。
…嬉しいけど、なんで?
ソフィアが珍しく早起きしたから?
ゲームにはないシーンだ。
まさかのここに来て自由演技。
でも、ここはがんばらないと。
私は、あからさまに怪訝な表情を作った。
「急に、なにを言ってるのかしら?」
って、あぁぁ!
ここは無視するべきだったかもしれない。
返事をしたとたん、ティファニーちゃんはちょっとほっとした顔になった!
そうだ。
ソフィアは自分の用がない限りは、ティファニーちゃんは無視。そんな悪役令嬢だった!
もう逃げよう。
私は、寮から出ていこうとした。
「あ、待ってください!」
私よティファニーちゃんが追いかけてきて、私の手を握った。
「!?」
「私じゃなくても、良いです。ビ…生徒会長やご友人の方でも」
「…?」
ティファニーちゃんは、私の手を握ったまま話続けた。
振り払わなきゃ。
そう思いつつ、ティファニーちゃんの予想外の行動についていけない。
だって、ずっとティファニーちゃんに意地悪してきたのに。
なぜ、そんな心配そうな顔をするの?
「…ソフィア様」
ティファニーちゃんの手は冷たかった。
「あのとき、どうして赤ワインを私にかけたんですか?」
「えっ?」
ここで断罪が始まるの?
他の人たちも、ビクター様もいないし、そもそも 魔王様が復活してないのに。
頭をフル回転させて、ゲームの記憶を呼び起こす。
こんなシーンはなかった。
でも、きっとこれがこの先のシーンに必要なことで…。
「あのとき、すごくお辛そうでした。何か理由があってあんなことをしたんじゃないですか?」
「…え」
違う。
これは、演技だったってばれていた…。
血の気が引いた。
私、失敗してたの…?




