76,みんなでお茶会
「ソフィア様、この紅茶をご存知ですか?」
クレアがそう言いながら、紅茶を入れてくれる。
ここは、寮の一階にある談話室。
毛足の長い深緑色の絨毯が敷かれていて、レースのかかったテーブルは重厚感のある一級品。
クッションつきのソファに寄りかかり、暖房が惜しみ無く使われたほかほかなこの空間では、指先が冷たくなることもない。
「いいえ、初めて見るわ」
プライド高い公爵令嬢でも、いつも慕ってくれるクレアが、嬉しそうに淹れてくれる紅茶をけなしたりはしません!
「ハーリィ・フュルト」
「え?」
その名前は、もちろん攻略対象者の一人。
最近私も会った、あの人だ。
「ソフィア様もご存知ですか? この学校の生徒なんですが」
「えぇ。商人の。公爵家にも品物を持ってきたわ」
ハーリィ・フュルトは、異国から来た商人の息子。貴族の血が入っていて魔力もあるから、この学校に入学してきたらしい。
異国風のアクセサリーを色々つけたハーリィは、この学校にはいないタイプで、ティファニーちゃんほどではないにしろ、ちょっとみんなから浮いた存在だった。
でも、本人の人懐っこさと商人的話術であっという間にみんなと仲良くなったようだ。
「彼がくれたんです。新商品で、味の感想が欲しいそうで」
クレアがが見せてくれた茶葉は、少し赤みがかったものだった。白い花やオレンジっぽい皮もある。少し大きめの黒い細長いのは、何かの種かな…?
「良い香りだわ」
スパイシーな香りだ。
「そうなんです! たくさんの香辛料が使われているんです!」
いつもはクールな感じのクレアが嬉しそうだ。
「寒い冬に飲むと、体を暖めてくれるそうで。ここよりも、冬が長い国でよく飲まれているそうですわ。もしも辛く感じるなら、蜂蜜をいれても良いと、彼が言ってました」
クレアがいそいそと、蜂蜜の入った瓶を取り出す。
小さな瓶だ。
「まぁ、クレア。蜂蜜まで用意してくれたの?」
なんだか、高級品っぽい。
悪役令嬢は遠慮はしないけど、でも、「甘いものの気分じゃないの」、の一言で断れるよ?
「えぇ。もらったんです。紅茶の感想を教える、交換条件だって言って」
あぁ。
クレア経由で女子たちに広まれば、なかなかいい広告塔になってくれそうだものね。
クレアと公爵令嬢は一緒にお茶を飲むのは、周知されてるし。
そう思っていたら、一緒のテーブルについていた子が言った。
「まぁ、クレアさん。ずいぶんとフュルトと仲が良いのね?」
「!!」
クレアの顔が一気に真っ赤になった。
「ち、違いますわ」
「まぁ、クレア。そうだったの?」
なんと!
ティファニーちゃんはビクター様ルートに乗っているので、全く問題ない。
応援するよ!
そんな思いでクレアを見ると、クレアは首を振った。
「ソフィア様まで! 違います!」
そんな真っ赤な顔で言っても、説得力はない。
みんなが生ぬるい目で見ていたからか、クレアは蜂蜜の瓶の蓋を開けると、問答無用でみんなのティーカップにスプーンで蜂蜜を入れた。
「本当に違うんです!」
「でも、よくフュルトと話しているのをよく見たわ」
隣の席の子が言う。
すると、クレアは少しうつむいた。
「それは、ちょっと相談事を…」
…?
なぜ、私のほうを見るんだろう?
「…最近、ソフィア様がお元気がないので、何か気分が変わることを、と思って…」
「まぁ…」
いつも通りにしていたつもりだったのに、気付かれてた!?
「ビクター様とお会いできなくて、寂しいのでしょう? だから、私、他にもハーリィから珍しいお菓子や品物を教えてもらったんです」
…元気がないのも寂しいのも、違う理由だ。
でも、クレアの気持ちは嬉しい。
「ありがとう、クレア。今日は、もう一杯いただこうかしら」
いつもなら、そろそろ部屋に戻ると言って、旧校舎に向かっていた頃合いだった。
「ソフィア様…」
ここまで話すつもりはなかったのに。
そんなことを言いたげな、困り顔のクレアに私は微笑んだ。
あと、取りあえずこれだけは言わなくては。
「クレアはフュルトとのことを名前で呼ぶのね?」
クレアが悲鳴を上げた。




