73,扉を叩く者
ソフィアがいなくなって、教室は一気に寂しくなった。
押し付けるように渡された高価そうな箱を開けると、銀紙に包まれたチョコレートが六つ。
「…」
そのうちの一つを取り出して、口に放り込む。
その甘さに浸りながらも、侵入者が窓の外を見ないようにわざと机を動かして大きな音を立てると、なぜか足音はまっすぐこちらに向かってきた。
どうやらここに入り込んだ目的は、誰もいない場所での告白や、肝試しではないようだ。
どこかの令嬢のように、こっそり泣きたかったというかわいらしい理由でもない。
チョコレートの箱を棚に隠し、ポケットにしまっていた帽子を深めに被る。作業をしている風を装って机を動かしていると、足音が止まった。
「作業の途中に申し訳ありません」
開けっぱなしにしていた扉を軽く叩いてエリックに声をかけたのは、赤い瞳のこの国の王子、ソフィアの婚約者であるビクターだった。
「はい、なんでしょう」
婚約者との時間が取れないほど忙しいらしい生徒会長が、わざわざこんなところになんの用だ?
そんな思いを隠して、用務員の笑顔を作る。
「この旧校舎に、最近生徒が出入りしていると聞いたので、確認をしたく参りました。何か、心当たりはありませんか?」
…。
「時折、肝試しなどで来る生徒さんはいますが…?」
当たり障りのないことを答えた。
旧校舎の生徒の立ち入りは禁止されているが、わざわざ生徒会長が確認に来るほどのことではない。
「…そうですか」
聞きたかった答えとは、違ったのだろう。
王子は顔をくもらせた。
「特に備品がなくなったり、壊されたりもしてませんし、問題はありませんよ」
このまま帰ってくれ。
そのエリックの願いは、叶わなかった。
「あ、あの!」
扉に隠れて見えなかった、もう一人が顔を出した。




