71,甘いチョコレート
こっそり町で買ってきた、このチョコレートをいつ渡そうか。
正直今日は、そればかりを考えていた。
「おかしいって、何が?」
エリックの言葉に私は動揺した。
何か、ルートから外れたことをしたかな…。
「いや、ソフィアがアンブローズにしたことは、悪いことではあるが、国外追放されるほどのことか?」
「…あぁ。…うん…」
この国にも、裁判所や刑務所にあたる場所はある。
ソフィアはあまり法律についてのことは勉強してこなかったけど、一般常識くらいは知っている。
「この国で一番重いのは、国外追放だもんね…」
一生、この国に戻っては来れない。
そんな重い罪を犯したのだから、他の国で生きていくにも、たくさん苦労するだろう。
まして、貴族の出ならばなおさらだ。
異文化、庶民の暮らし、周囲の目。
壁はいくつもある。
「俺は、ソフィアはこれから、もっと酷いことをするのかと思ってたんだ。初めて会った頃は、犯罪紛いのことをする、みたいなことを言ってなかったか?」
「うん。ビクター様の好感度が、他の攻略対象者よりも極端に高過ぎると、ソフィアは酷いことをもっとたくさんするの。バッドエンドの予兆でもあるんだけどね。…あの頃は、ティファニーちゃんがどう動くか分からなかったから」
ティファニーちゃんの選択次第では、遠足先の崖の上から突き飛ばしたりとかもあったのだ。
…本当に、やらなくて済んで良かった。
「それはやって無いだろう? だとすると、ソフィアのしたことはあえて言えば、器物破損と名誉毀損…とかになるのか?」
「それだけでも、酷いことだよ」
「ただ、罰が重すぎる」
エリックの言う通り、ソフィアが捕まって、裁判にかけられたなら、確かに国外追放とはならないだろう。
「でも、ソフィアは公爵令嬢で、ビクター様の婚約者だから」
身分制度が強くて、そこにもまた規則がある。
「公爵令嬢が庶民の娘を、不当な理由で虐げた。しかも、その子は救国の力を持っていて、魔王すらも凌ぐ力の持ち主だった」
「…」
「さらに、その子は心優しくみんなに慕われている。そこは、みんなに信頼の厚い第一王子のお墨付き」
私も考えたのだ。
この国で、ソフィアがどうすれば国外追放になるのか。
「ソフィアの裏の顔がビクター様にばれて、ビクター様に見限られて婚約破棄。王妃の資格無しなんて、大きな傷になる。そうなるとね、公爵家としてソフィアを庇っては家名に傷がつくの。王家との繋がりが切れてしまえば、公爵家は痛手を負う」
ソフィアを守るか、王家との繋がりを守るか。その二択だ。
「…王家との繋がりを守るために、ソフィアを切った?」
「うん。ソフィアを厳しく罰することで、王家に恭順の姿勢を示した。結果、ソフィアは、王家から遠いところ…国外に出された。ってことになるんじゃないか、とにらんでる」
エリックの険しい顔が、なんだか嬉しい。
本当に、この人は優しいなぁ。
「このことをざっくりまとめると、国外追放ってことになるんじゃないかな。多分」
「…雑すぎるだろ」
「ソフィアはあくまでも、脇役なので…」
主人公の邪魔ばかりしている悪役令嬢だ。ざまぁはしっかり、でも、時間は短く。
「みんなが見たいのは、攻略対象者との素敵なエンディングだからね」
「それがゲームか…」
「うん。私だって、同じだった。悪いことばかりしているソフィアがどんな目に遭おうと、気にしたことなかったよ」
「…でも、ここは違うぞ?」
「ありがとう。でも、だからこそ、だよ」
エリックの言葉、一つ一つが嬉しい。
「ゲームと同じことは起きる。でも、ゲームで語られ無かったことは結構あって、そこの部分はかなり広そう」
こうやって、私のことを心配してくれるエリックとか、私に甘いお兄様とか。
「つまり?」
「この国には帰って来れないけど、他国の修道院とか公爵家のつてのあるどこかとかに行くことになるんじゃないかな」
この一年、家族の仲や考え方を見てきて出た答えだ。
みんな、公爵家の誇りを持っているけど、家族仲は良いほうだ。
「だから突然他国にぽいっと、なにも持たずに放り出されることはない、と思う」
「それは、確かか?」
「少なくとも、住むところは用意してくれると思うよ。王家も、私がこの国に帰って来なければ、それでいいだろうし」
なんだか、納得してなさそうな顔だ。
「私は貴族の生活じゃなくても、そんなに気にならないから、大丈夫」
「まぁ、着の身着のままで異国に放り出されるよりかは、いいんだろうけど…」
「うん。他の物語やゲームでは、断罪シーンはもっと酷いのがあったから、それに比べれば!」
「…ソフィアは強いな」
「泣いてばっかなのに?」
「あぁ。パトリシアよりも強いよ」
「エリック、大げさ」
「いや…。でも、そうか」
?
「ソフィアの出番がもうないのなら、どこかへ逃げてしまえと言おうかと思ってたんだ。王家に何か言われる前に自ら出ていったほうが、まだ、ましだろ?」
「…それは、考えたこと無かった」
魔王様が復活したら、確かに私の役割りは終わる。
「でも、だめだよ。ティファニーちゃんに酷いことしたんだから」
最後まで悪役令嬢らしく。
謝れない代わりに罰を。
「…」
そんな私を見て、エリックはため息をついた。
「ソフィアはそれでいいんだな?」
この言葉。
何回エリックは言っただろう。
私の返事は決まっている。
「いい。…それがいいの」
「…分かった」
納得してくれた、かな。
私は再びチョコレートに意識を…
「誰か来たな」




