68,一月のデート
年が明けた。
山に囲まれたこの国は雪がよく降るため、冬休みは長い。
「ソフィア、どこか行きたいところは?」
新年は王室でも色々行事があるだろうに、なぜかビクター様はお約束の月一デートをするため、公爵家にお迎えに来てくれた。
…ティファニーちゃんは、ソフィアからの数々の嫌がらせの全てをビクター様には話さない。
でも、噂話やティファニーちゃんの様子などで察したビクター様が、色々証拠集めをして、みんなの前で断罪するのだ。
ゲームは、ティファニーちゃんの視点しか無かったので、いつどうやって証拠集めをしたかまではわからない。
でも、あの舞踏会がきっかけなのは確かなので、もうソフィアを怪しんでいるはずなのにな。
何で、デート?
もしかして、ソフィアの裏の顔を探るためのデートなのかも…。
だとしても、断罪を望む私がすることはただ一つ。悪役令嬢ソフィアらしく振る舞うことだ。
「そうですわね。わたくし、ビクター様と一緒なら、どこでもいいですわ」
そうして甘えるように腕を組む。
嫌がられるかなと思いきや、ビクター様はなぜか頷いた。
「そうか。そう言えば以前、薔薇園で迷子を保護したのを覚えているか?」
「えぇ」
私にパトリシアと言う名前のオレンジ色の薔薇をくれた子だ。
あの後、すぐに保護者が見つかったとは聞いたけど…。
「大臣の孫だったそうなんだが、新年の挨拶のときに、改めて礼を言われた」
「まぁ、そうでしたの」
あのとき、迷子を見つけたのも保護したのも護衛の騎士さんで、私は何もしていない。
けど、ビクター様に褒められるチャンスを逃すソフィアではないので、ここは自分の手柄のように喜ぶ!
「無事で良かったですわ」
「そのときに…」
ビクター様はじっと自分の手を見た。
? なんだろう?
何かジャンケンのように、指を出したり折り曲げたりしてる…。
思わず私も一緒になって、ビクター様の手を見た。
「…ダメだな。忘れてしまった」
「?」
「あの迷子が家に帰ってから、不思議な指の形をして遊ぶようになった、と言われたんだ」
「不思議な指の形、ですか?」
「あぁ。どうやら動物の形を模したものらしい」
「!」
それは、影絵遊びのあれのことではっ…!
私は頑張って、悪役令嬢の表情を取り繕った。
「しかし、どうも犬の形が上手く出来ないと、嘆いているそうだ」
「…」
ビクター様は、再び手を動かした。
「おそらく子供をあやすためのものだと思うのだが、乳母やメイドに聞いても誰もわからないと…」
「まぁ…」
焼きそばすらもある世界なのに、影絵遊びはないの…?
「本などでも探してみたが、見つからないようだ」
ううっ、なるほど。
確かにこの国に、子ども向けの本は少ない。
その上、あの小さな子からの情報だけをたよりに探すとなると大変なのだろう…。ヒントが少なすぎるのだ。
「あの日に会った人間は、俺と護衛と君。護衛の者は知らないと言っていたんだが、君は何か心当たりはあるか?」
「それは…」
あります!
実演も出来ますし、それをビクター様が絵にして下されば、解決します!
そう言ってあげたい。
でも、それだと、子ども嫌いの悪役令嬢が、実は迷子をあやしていたとばれてしまう…。
真剣な眼差しのビクター様。
あの子も喜んでくれるんだろう。
国外追放されたら、一生教えてあげられる機会はない。
「…申し訳ありません。分かりませんわ」
「…そうか」
ビクター様は残念そうに言った。
「いや、君のせいじゃない。きっと、迷子のときに他の人物に会ったかのかもしれない」
いいえ、私のせいです。
…国外追放されたら、影絵の本を出版しなければ…。
「えぇっと、でも、無事に帰れて良かったですわ」
この重い空気を何とかしたくて、私は無理やり話を変えた。
「どこかで眠り込んでしまったら、探すのも大変だったでしょうね」
「そうだな」
女性に優しく! が基本の貴族男子。
突然の話の転換にも、普通についてきてくれる。
「前に学校でもあったそうですわ。男子生徒が行方不明になったことが」
数年前の話だから、生徒会長で、なおかつたくさんの情報を集めているビクター様なら、知っていることかも。
説明しながらそう気付いたけれど、ビクター様は私の話を遮ることなく聞いてくれた。
「地下の穀物庫で見つかったそうなんですけど、その生徒は眠り込んでいて、見つけるのに随分と時間がかかって大変だったそうですわ」
エリックに教えてもらったことだ。
その生徒さんのおかげで、私には逃げ場所が出来て、エリックという大事な味方が出来たのだ。
「あぁ。百年前の」
「百年前? いえ、私がお友だちに聞いたのは、数年前のことですが…」
だって、エリックの実体験だ。
「俺が知っているのは、百年程前に、失恋した生徒がいなくなって、穀物庫で発見された、と」
文化祭で迷路を作るとき、この学校の歴史を調べていて、そんな話を見つけたんだ。
ビクター様は言った。
あぁ。お化け屋敷仕立ての迷路でしたものね。色々、昔の話を集めているって、マックスがティファニーちゃんに言ってたなぁ。
それにしても。
「私が聞いたのは、成績が下がった悲しさが理由でしたわ。何度もあることなんですね…」
思春期、と大人はくくるかもしれない。
でも、誰だって一人になりたいときはあるはずだ。
「…そうだな」
なんだか難しそうな顔…?
まだ、影絵のことが気になるのかも。
「ビクター様。今日は…」
「あぁ、すまない。せっかくの外出なのに、話し込んでしまったな」
「いえ…」
国で一番大きな図書館に行きましょうか。
その言葉を、私は無理やり飲み込んだ。
「なんだか。わたくし甘いものが頂きたいですわ」




