62,学校行事
いつもとは違って、馬車は校門を通りすぎて舞踏会の行われる建物まで進んだ。
馭者の掛け声とともにゆっくりと止まると、直ぐに馬車の扉が開かれる。
「ソフィア。迎えに行かれずにすまない」
扉の向こうには、正装姿のビクター様が立っていた。
白い布地に金色のボタン。胸ポケットから少し見える、私のドレスと同じ色の赤いハンカチ。
王子様だ…。
感動を押し隠し、私はにっこりと微笑むと、差し出されたビクター様の手に自分の手を重ねた。
「良く似合っている」
「ありがとうございます」
ビクター様のエスコートを受け歩きだすと、他の生徒がみんな立ち止まってこちらを見た。
「ビクター様とソフィア様だ」
「綺麗…」
「お似合いの二人だな」
「あんなエスコート、されてみたいわね」
「あのドレスは、どこのものかしら」
美しく着飾った人々がヒソヒソとささやく言葉は、全て羨望や称賛のもの。
ビクター様と話して少し微笑むだけで、どよめきが生まれる。
公爵令嬢ソフィアなら、気持ち良いと感じるだろう。
…私は、この後のことで頭がいっぱいだけど。
ビクター様のエスコートを受けて舞踏会の会場に入る。
本当の舞踏会に見立ててはいるけど、あくまでも自由参加の学校行事なので、受け付けも始まりの挨拶も特に無い。もしも、それらをきっちり行ってしまうと、教師陣や生徒会の負担が大きくなってしまうからだと思われる。
昔、生徒数が多いときは、二日に分けたときもあったらしい。
もうすでに始まっていて、綺麗な生演奏の音楽の中、着飾った生徒たちが楽しそうに踊っていた。
色とりどりのドレスがふわりと広がる。
「まずは、踊るか?」
ビクター様が聞いたので、私は頷いた。
この会場に入ったときから注目を浴びているのだから、そのまま踊りたい。ソフィアなら、そう考える。
「えぇ。もちろん」
「わかった」
そのままビクター様にエスコートされ、みんなが踊っている場所へと向かう。
ビクター様が声をかけたわけではないのに、自然と道が拓け、一番良い場所が空いた。
これなら、うっかり誰かにぶつかることはないかなってくらい他の生徒との距離がある。
…うん。みんな素人だから、かな。そう思おう。
「ソフィア?」
かなりの注目度に一瞬気が遠くなりかけた私に、ビクター様が声をかけた。
「なんでもありませんわ」
音楽が止んで、みんなも踊るのをやめた。
次の曲が始まる。
姿勢をピンっと張って、ビクター様の肩に手を掛ける。腰に回された手、当たり前だけど向き合って見つめ合う。
ルビー色の綺麗な目が、私だけを映す。
音楽が始まった。
今日は一つも失敗してはいけない日。
心の中で呟いて、私は一歩踏み出した。




