57,リハーサル
燕尾服を着た指揮者が、タクトを構えた。
それから数秒後。
静まり返った講堂に、優しい三拍子の音楽が流れ、私はビクター様のリードのもと、足を踏み出す。
ソフィアは、努力家でも勉強家でもない。でも、華やかな場は大好きだった。だから、ドレスに宝飾品と着飾れる舞踏会は大好きで、みんなに注目を浴びるダンスだけは、練習を重ねた。
そんな理由で大体の動きは体に染み込んでいるから、あとはビクター様に任せるだけ。
舞踏会の場の広い講堂は、ファーストダンスさながら、私とビクター様だけ。貸し切り状態だ。
ふわりと制服のスカートが揺れる。
1、2、3。1、2、3。
ゲームの記憶を思い出してから、初めてのダンスだ。
だから腰に回された手や、この密着度、そして真正面の間近でみるビクター様の真剣な顔。全てがちょっと恥ずかしい。
いや、私はソフィア!
うっとりはしても、恥じらいはしない!
「ソフィア」
「はい」
踊っている最中に、ビクター様が言った。
あれ、ステップ間違えていたかな?
「ドレスはもう届いたと聞いたが」
「えぇ。素晴らしい出来でしたわ」
一度試着もしてみた。
本当にゲームの絵と同じ出来で、ソフィアによく似合っていた。
「そうか。それは楽しみだ」
「宝飾品もとびきりの物を用意しましたの」
あ、話していたら、少し落ち着いてきた。
自分でも気付かないうちに、体に余計な力が入っていたみたい。
寄り掛かってはいけないけど、相手を信頼して身を任すのも一つのやり方。
そして、ビクター様と呼吸を合わせる。
軽やかなワルツが終わり、次の曲に入った。
早めの曲で、ステップがちょっと難しい。
ビクター様が視線で問うてきたので、笑顔で返す。まだまだ踊りたいです、と。
「この曲は、久しぶりだな」
「そうですわね」
華やかな舞踏会は好きだけど、年齢的にまだそんなには参加させてはもらえなかった。
でも、ダンスの練習で、よくビクター様と踊った。
難しいステップだけど、なんとかこなす。
音楽に乗って体を動かしていると、少しずつ楽しくなってきた。
失敗してはいけないとちょっと緊張していたけれど、ビクター様に任せていれば大丈夫だと思い出した!
うっかりソフィアの演技を忘れないよう気を付けながら、でも楽しく踊る。
そうして何曲踊っただろうか。
「…これくらいにしておこう」
「そうですわね」
まだ踊りたいですわ!
そんなわがままを言う気が起きないほど、踊ってしまった…。
かなり疲れたので、ビクター様から離れて、スカートの裾を摘まんでお辞儀をする。
わっ、と歓声と拍手が贈られた。
「今日は楽しかった」
「えぇ。私もですわ」
いつの間にかたくさん増えていた観客に、ビクター様は驚いた様子はないので、踊っていてもちゃんと周りが見えていたのだろう。
「?」
そのまま外へエスコートする流れなはずなのに、何故かビクター様は私の髪を撫でた。
「…当日も、楽しみにしている」
「はい」
どうやらビクター様は、ダンスが好きだったらしい。
書類作業が多くて、体を動かす機会が少ないからかな。
当日は、ティファニーちゃんとも踊れるから大丈夫ですよ!
その思いで、私は力一杯返事をした。




