53,あなたへの贈り物
「なんか、誕生日の話長いな?」
「大事なイベントだもの!」
ティファニーちゃんの誕生日は十二月。
仲良くなれていれば、お祝いしてもらえる。
「早朝パーティーはやってもらえたみたいだし、ティファニーちゃんの首にチェーンがちらって見えたから、贈り物も大丈夫」
「掃除してたら、生徒会室から出てくるのを見たけど、なんかすごい弾んで歩いてたぞ」
「じゃあ、ビクター様にもお祝いしてもらえたんだね!」
うんうん。
「すごく順調に進んでる!」
人の心の中はわからない。
ティファニーちゃんの優しさや心の清らかさは、ちゃんと皆に伝わっていたようだと安心した。特に、
「ビクター様」
「うん?」
「ちゃんと、シナリオ通りに進んでる。良かったぁ」
「つまりは、恋愛対象になったのか?」
「うーん。まだなんだけど、かなり近づいた。特別枠の生徒から、がんばり屋の後輩、そして、がんばり屋の可愛い後輩って感じ…?」
ビクター様は王子で、さらには、婚約者がいる。
だから、変な憶測とかを避けるため、極力誰かと親しい関係を作らないようにしているみたいだ。
「誕生日一つで、大変だな。貴族は」
「まぁ、ビクター様は特にね」
持ってきた紙袋を持ち直す。
うぅっ。緊張で顔がこわばってる気が…っ。
「…あのね。エリックの誕生日は、五月、だったよね」
「…? 俺、ソフィアに誕生日の話なんてしたか?」
「ごめん。エリックから聞いたんじゃなくて、ゲームの知識。用務員さんのプロフィールにあったの」
「なるほど。まぁ、別に謝ることじゃないよ」
「それでね、次の五月はもう、この国にはいないから」
私は、エリックに紙袋を差し出した。
「これ! あげる! 早すぎる誕生日プレゼント!」
「ソフィア?」
エリックは紙袋を見るだけで、受け取ろうとはしなかった。
「うぅっ。だって、エリック、お礼はいらないって言うし、絶対に他のお願い事もしないでしょ」
私は、紙袋を突き出したまま続ける。
「それは、」
「エリックが良くても、私が嫌なの! …ちょっとでいいから、これ見て私のことを思い出してくれたら、…嬉しい」
わがままだと思う。
これは、エリックのための贈り物じゃなくて、自分が満足するためのものだ。
「…分かった」
苦笑しながら、エリックは紙袋を受け取ってくれた。
「ありがとう。開けてもいいか?」
「うん!」
エリックは丁寧に袋を開けた。
「これは…」
中から出てきたのは、用務員さん必須のウエストポーチだ。
「普段使い出来るものが良いかなって思って。エリックの、だいぶ痛んでたから…」
エリックが腰に巻いてる革製のウエストポーチは、何度も補修した跡があった。
多分、学校から支給されている物だと思うんだけど、新しいのは貰えないようだ。
「あぁ。これは、用務員を辞めた奴から…もらった物だから」
なんと!
「もしかして、その辞めた人との思い出の品…?」
学校に言えば新しい物を貰えるだろうに、あえて古い物を使うということは、辞めた人との間に厚い友情があったのだろうか。
…知らなかったとは言え、無神経なことをしてしまった!
「ごめんなさい、他の物にする!」
エリックの手からウエストポーチを取ろうとして、拒否された。
「違うよ。ただ、新しいのを頼むのが面倒だっただけ」
「本当に? 俺の分までここで頑張ってくれ、と言われて託されたんじゃないの?」
「どんな状況だよ。それ。ただの用務員だぞ。本当に違う。今、使っても?」
疑わしい。
じーっと見つめると、エリックは笑いながらウエストポーチを外した。
「新しいのが欲しいと思ってたから、嬉しいよ」
古いウエストポーチをテーブルの上に置く。
近くで見ると、傷みがひどい。
なん十年と使われ続けたような、年期の入った代物だ。
エリックは、ウエストポーチの中身を取り出してテーブルの上に並べ始めた。
「でも、よく同じような物を見つけたな」
「うん。革製品のお店を何件かまわって探した」
公爵令嬢ソフィアとウエストポーチ。
なかなか似合わない組み合わせなので欲しいと言いづらく、他の物のついでのように買う小芝居をしつつ、だった。
次々と、中身が並べられていく。
工具やハサミ、用務員さんの七つ道具!
プロフィールには載っていない情報だ。
四次元ポケットのように色々出てくる道具を楽しく見ていると、エリックが一つだけ、取り出した道具をテーブルに置かずに私に差し出した。
「わっ、懐中時計だ」
腕時計はこの世界にはない。
鎖に付けて持ち運ぶしかない。
お兄様も持っていたなぁ。
お兄様の持っていた物よりも小さくて、使い込んだ跡がある。所々、傷がついているし、色もくすんでいる。それがアンティークっぽくてかっこいい。
「古い物だ」
「うん。使い込んだ感じがかっこいい」
秒針のカチッコチッと言う歯車の振動が伝わってきた。
「気に入ったのなら良かった」
「?」
エリックが優しく微笑んだ。
まるで自分が褒められたかのようにうれしそう?
「ソフィアにあげるよ。良かったら、使ってやってくれ」
「!」
それだけ言うと、エリックは新しいウエストポーチに工具をしまい始めた。
「大事なものでしょ! 貰えないよ!」
「いや、別に。もう十分長いこと持っていたし」
「でも、懐中時計って、高価な物…」
宝石並みに高いものではないけれど、貴族以外で持っている人は少ない。
「古いから価値はそんなにないと思うけど、追放されて路金に困ったら、売ってくれ」
「そんなこと出来ないよ!」
慌てて、返そうとすると、その前にエリックが言った。
「俺は国外についていけないだろう? だから、…俺のためだと思って」
「エリック…」
手のひらの小さな懐中時計を見る。
「…ずるいよ」
その気持ちは、ウエストポーチを渡したときの私とおんなじ…だと思っていいのかな。
それを言われたら、もう返せない。
「本当にいいの?」
「あぁ。念のためにもう一度言っとくけど、要らなくなったら、売って良いからな」
「売らない。大事にする」
私は手の平の懐中時計を握りしめた。




