50,休日
「ほら、クレイグ先輩。こっちの店です」
私服姿のハーリィは、眠そうに目を擦っているクレイグを呼んだ。
いつもよりもピアスや指輪が多めで、ふかふかそうな黒いコートを羽織っている。
クレイグは、ざっくり編んだオレンジ色のセーター姿。毛玉が出来ているので、かなりのお気に入りなのだろう。
「ハーリィ。何で俺まで…」
そう不満気に言うのは、マックスだ。
マックスも私服。白いシャツにネクタイをしめているので、若干、制服っぽい。ロングコートに質のいいマフラー。育ちの良さそうな雰囲気が見て分かる。
「うん? ティファニーの誕生日プレゼント、贈りたくなければ、帰って良いぞ」
「ぼ、僕は別に…」
「あー? 理由が必要か? そうだなぁ。初対面で意地悪した詫び代わり? それとも、魔力を見つけ出してくれた礼? 弟とリンジーとの仲を取り持ってくれた感謝の印、とかでも良いけど」
ハーリィがニヤニヤと笑いながら言った。
それに、マックスが顔を真っ赤にして言い返す。
「そんな理由! …っだったら、ハーリィはどんな理由でアンブローズにプレゼントを渡すつもりだ!」
「あー? 女の子に贈り物をするのに、いちいち理由なんかつけるかよ。ただ、俺が贈りたかった、それだけだ」
マックスは口をあんぐりと大きく開けて、目を見張った。何も言葉が出てこなかったようだ。
「…ただなぁ、今回はそれじゃ駄目なんだよなぁ」
先程の威勢はどこへやら。
ハーリィは、若干しょんぼりしながら続けた。
「そんな理由じゃ、ティファニーは受け取ってはくれないだろ?」
「ティファニーは、優しい良い子だよ?」
クレイグの反論にハーリィはうなずく。
「そうですけど今回贈りたいのは、ネックレスなんですよ」
「ネックレス? って言うか、もう決まってるのか?」
マックスが眉をひそめた。
「おぅ。年末の休暇前の舞踏会があるだろ。この学校で、生徒が一番気合いをいれると言われてるやつ」
「あるけど…」
「ドレスは、リンジーに借りるらしいんだ。でも、ドレスに合わせる宝飾品はないって聞いた。だから、ネックレスを贈ろうと思ったけど、…絶対高価なものは受け取らないだろ。あいつ」
最初ティファニーは、祖母の珊瑚のネックレスをつけるつもりだったらしい。しかし借りるドレスの意匠と珊瑚のネックレスの組み合わせは、あまり合わなかった。周りの意見もあって、宝飾品は付けないで出ることにした、と聞いたんだ。
ハーリィは二人にそう説明した。
「…別に、ネックレスなんて無くたって…」
「確かに、公式なパーティーじゃないから無くてもいい」
貴族といえど、余裕の無い家もある。
誰かに借りたりする場合だって、珍しくはない。
「けど、見たくないか?」
ドレスを着て、自分が贈ったネックレスを付けて微笑むティファニーの姿を思い浮かべたのだろう。
マックスは少し顔を赤らめた。
「…それで、連名の贈り物ならアンブローズも受け取るだろうってことか?」
「そういうこと。さらに付け加えれば、中古品を探す」
「中古品?」
「大丈夫。俺の審美眼と、クレイグ先輩の石の知識があれば、お宝発掘も夢じゃない」
中古品として安く売られているものの、本当は価値があるものを見つけ出し、それをティファニーに贈る、と言うのがハーリィの立てた作戦のようだ。
「休日にみんなで探して買ったと言えば、ティファニーも断れないだろ」
さらには、安物だと付け加えれば完璧だ。
そう言われ、マックスは小さく唸った。
「…そうだな」
ティファニーに贈り物をするのは、嫌じゃない。でも、ハーリィの案にのるのは抵抗がある。そんな顔だ。
「…でも」
それまで静かに聞いていたクレイグが口を開く。
「なんですか、先輩?」
「ティファニーは、目立つのは嫌なんじゃないかなぁ」
貴族のパーティーは情報戦でもある。
ドレス、靴、アクセサリー。
身に付けている物は、ある意味本人からのメッセージのようなものだ。
高価な物を購入出来る財力、最新のデザインを知っていると言う知力。そして、それらを集められる力。
貴族ではないティファニーは、色々な意味で目立っていて、それ故、生徒から嫌がらせを受けることもある。
そんなティファニーが、高価なアクセサリーを身に付けたら、悪目立ちしてしまう恐れがある。
クレイグの言葉に、ハーリィは頷いた。
「クレイグ先輩、眠そうにしつつちゃんと話を聞いてくれてたんですね…」
しかも、「周りの評価」と言う繊細な問題にまで気を配れる何て、とハーリィはこの先輩を見直したように言った。
「だから、石は小さいものにします。意匠も、あまり目立たないものにするつもりです」
その説明にマックスが首を傾げた。
「うん? さっきと言ってること違うじゃないか」
「ティファニーに似合えば良いんだよ。石もデザインも今は人気がなくても、ちょっとしたことで流行り出すからな」
例えば、古くさいと思っていたのに、ドレスとの着こなしかたで上品で素敵だったとかな。
「つまりは、さざ波のようなものだ」
得意気に言うハーリィに、クレイグが呟く。
「それは、ティファニーのため?」
それとも、自分の商売のため?
その質問にハーリィはまっすぐ答えた。
「ティファニーのためです。あいつは、武器が少なすぎる。これからあいつは、色んな場所で戦うことになる。そのとき、ネックレスが盾になってほしいから、俺らしくない、こんな回りくどいことを計画してみました」
何かを見定めるようにクレイグは、ハーリィの目をじっと見つめた。
ハーリィもまた、真剣に見返す。
「ふぅん。なら、良いのかなぁ」
そう言って手に取ったのは、ピンク色の石のついたネックレスだった。
「それ、すごく錆びてますけど…」
マックスが控えめに言う。
石以外のほとんどがさびが浮き上がって、触ると手が汚れるほどだった。
だからか、値段はとても安い。
三人で割れば辞書一冊分ほどか。
「これくらいなら、丁寧に磨けば大丈夫。…僕なら出来る」
「じゃあ、交渉は俺に任せてください」
「え、値切るの?」
「それがここでの作法だろ」
「違うと思うけど…。それに、贈り物を値切るとか」
「良いんだよ。色々あったって話ができた方が楽しいだろ」
「そうかなぁ」
「なんだよ。どうせなら、忘れられない贈り物の方が良いだろ?」
「うーん…」
男子生徒三人が立ち去って、やっと私は、馬車から降りることが出来た。
「…」
これも作品の裏側みたいな感じかなぁ。
ティファニーちゃんの誕生日イベント。
日頃、お菓子やお弁当を差し入れしてくれたり、部員じゃないのに部活の手伝いをしてくれたり、そんなティファニーちゃんに感謝してるからって、みんなから贈り物を貰う。
もちろんティファニーちゃんは驚くけど、みんなからの贈り物。喜んで受け取るのだ。
「忘れられない贈り物、かぁ」
そんな素敵な宝物、見つけられるといいな。
見つけられますように、と祈る気持ちで、町をぐるりと見渡した。




