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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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44/72

43,秋薔薇の君12 リンジー・コストナー2

◈◈◈◈◈


「わっ」


早朝の庭園には霧がかかっていた。

ひんやり冷たく、制服がしっとりと濡れてしまうのではないかと、心配になるくらいだ。


ここでのお茶会は、やめた方がいいかも。


リンジーは藤の籠にいれてきたお茶セットをチラリとみて、友人に帰ろうと提案するために振り返る。


「あ、おはようございます!」


しかしティファニーは知り合いの姿を見つけたらしく、リンジーを置いて走り出してしまった。


「…おぉ、君か。今朝は君たちだけのようだ…」


薔薇の影で見えないが、どうやら庭師のようだ。


「ティファニー?」


自分を置いて行ってしまった友人に声をかける。

しかしティファニーは一度振り返り、リンジーを見てにっこりと笑うと、庭師と同じ方向へと歩き出してしまった。


「えっ?」


数歩だ。

たった数歩歩いただけなのに、二人の姿が見えなくなった。


「今日は今年一番の冷え込みだ。きっと、いい天気になる」

「はい。天候の本で読みました。寒暖差が…」


二人の声が、どんどん小さくなる。

どうやら、霧で姿が隠されてしまったらしい。


「置いて行かれちゃった…」


朝露探しにさんざん付き合わせた。

だから、もう私のこと嫌いになったのかも…。

それとも失恋お茶会なんてごめんだ、と、これはティファニーの遠回しの返事…?


「ううん。ティファニーは、そんな子じゃない」


いつも一生懸命で、思いやりのある優しい子。

でも、ならなんで呼んでも来てくれないのか、わからない。


「…」


しっとりとした霧はリンジーの髪をしめらせて、綺麗に整えた前髪を乱した。

あまり寝ていない顔はむくんでいるし、目も赤い。急いで着替えたから、制服のリボンも少し曲がっている。

恋を諦め、そして、友人には置いてきぼり。


…惨めすぎて、泣きたくなった。


「…それもいいかも」


ここには、誰もいない。

いやこの世界には、今、私しかいないのかもしれない。


ずっと大事に抱えていた籠が、急にどうでもいいものに成り代わってしまって、地面に適当に置いた。中の食器が苦情を言うかのように、ガチャリと音を鳴らすが何も思わない。

ホコリ避けとして籠にかけた布を、むんずとつかむ。

この布の刺繍は、リンジーが縫ったものだ。鈴蘭と蝶々。

真っ白な生地も、綺麗な光沢のある刺繍糸も休日にあちこち探して集めたもの。もちろん、刺繍も納得いくまで何度もやり直した。

今までで、一番の自信作だ。

朝露を手に入れたお茶会をするとき、さりげなく近くに置いておくつもりだった。


「もう、いいわ」


思いっきり泣いたら、ハンカチだけじゃ到底足りない。

涙を拭くのに使ってやる!


さぁ、もう我慢することはない。泣いてしまえ!!


ずっと張りつめていた緊張を解こうとしたときだった。


「!」


突然、世界が輝きだした。



◈◈◈◈◈

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