43,秋薔薇の君12 リンジー・コストナー2
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「わっ」
早朝の庭園には霧がかかっていた。
ひんやり冷たく、制服がしっとりと濡れてしまうのではないかと、心配になるくらいだ。
ここでのお茶会は、やめた方がいいかも。
リンジーは藤の籠にいれてきたお茶セットをチラリとみて、友人に帰ろうと提案するために振り返る。
「あ、おはようございます!」
しかしティファニーは知り合いの姿を見つけたらしく、リンジーを置いて走り出してしまった。
「…おぉ、君か。今朝は君たちだけのようだ…」
薔薇の影で見えないが、どうやら庭師のようだ。
「ティファニー?」
自分を置いて行ってしまった友人に声をかける。
しかしティファニーは一度振り返り、リンジーを見てにっこりと笑うと、庭師と同じ方向へと歩き出してしまった。
「えっ?」
数歩だ。
たった数歩歩いただけなのに、二人の姿が見えなくなった。
「今日は今年一番の冷え込みだ。きっと、いい天気になる」
「はい。天候の本で読みました。寒暖差が…」
二人の声が、どんどん小さくなる。
どうやら、霧で姿が隠されてしまったらしい。
「置いて行かれちゃった…」
朝露探しにさんざん付き合わせた。
だから、もう私のこと嫌いになったのかも…。
それとも失恋お茶会なんてごめんだ、と、これはティファニーの遠回しの返事…?
「ううん。ティファニーは、そんな子じゃない」
いつも一生懸命で、思いやりのある優しい子。
でも、ならなんで呼んでも来てくれないのか、わからない。
「…」
しっとりとした霧はリンジーの髪をしめらせて、綺麗に整えた前髪を乱した。
あまり寝ていない顔はむくんでいるし、目も赤い。急いで着替えたから、制服のリボンも少し曲がっている。
恋を諦め、そして、友人には置いてきぼり。
…惨めすぎて、泣きたくなった。
「…それもいいかも」
ここには、誰もいない。
いやこの世界には、今、私しかいないのかもしれない。
ずっと大事に抱えていた籠が、急にどうでもいいものに成り代わってしまって、地面に適当に置いた。中の食器が苦情を言うかのように、ガチャリと音を鳴らすが何も思わない。
ホコリ避けとして籠にかけた布を、むんずとつかむ。
この布の刺繍は、リンジーが縫ったものだ。鈴蘭と蝶々。
真っ白な生地も、綺麗な光沢のある刺繍糸も休日にあちこち探して集めたもの。もちろん、刺繍も納得いくまで何度もやり直した。
今までで、一番の自信作だ。
朝露を手に入れたお茶会をするとき、さりげなく近くに置いておくつもりだった。
「もう、いいわ」
思いっきり泣いたら、ハンカチだけじゃ到底足りない。
涙を拭くのに使ってやる!
さぁ、もう我慢することはない。泣いてしまえ!!
ずっと張りつめていた緊張を解こうとしたときだった。
「!」
突然、世界が輝きだした。
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