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悪役令嬢ですが、シナリオを順守することに決めました  作者: 飴屋


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43/72

42,秋薔薇の君11 リンジー・コストナー

◈◈◈◈◈


その日は特に寒い朝だった。

ティファニーがリンジーの部屋に迎えに行くと、リンジーはモコモコの部屋着姿のままティファニーを自室に入れ言った。


「ありがとう、ティファニー。でも、もういいよ」

「リンジー! 諦めちゃだめだよ!」

「ううん。この寒さだもの。きっと、もう薔薇も萎れちゃったと思う」


リンジーが窓の外を見る。

ふぅっとため息まじりに吐いた息で、窓ガラスは白く曇った。


「…でも、」


おまじないをしても、必ず叶うわけではないし、おまじないをしなくても、叶う恋だってあるだろう。

でも、リンジーの目は少し赤く腫れていて、その寂しげな笑みでティファニーは悟ってしまった。


諦める気なんだ…。


リンジーの中で、秋薔薇についた朝露を見つけられるかどうかこそが、大事な告白への後押しだったのだろう。


はじめから、見つけられなかったらそこで思いを断つつもりだったのだ。


「…ふふっ」

「リンジー?」

「そんな顔、しないで」


リンジーはティファニーの手を握った。


「楽しかったの。寒いのは苦手だったけど、ティファニーと二人でわいわい騒ぎながら、綺麗な薔薇を探すのが、本当に楽しかった」


リンジーの手は冷たかった。

多分、昨日から寝ていないのだろう。


「私よりも、ティファニーの方が真剣に探してくれて。魔法で水をかけようとしたら、全力で止めてくれた」

「だって、リンジーに幸せになってほしかったから…」


そのためなら、何日だって朝露を探す。


「ティファニーがいてくれて、私は幸せだよ」


それは、透き通るような綺麗な笑みで、でも、ティファニーが見たかったリンジーの笑顔ではない。


「ねぇ、」

「さっ! 早朝お茶会しない? きょうは、取って置きのチョコレートも付けちゃう!!」


ティファニーの言葉を遮るように、リンジーが言った。


「それとも、クラッカーにいちごジャムの方がいいかな?」


リンジーは、ティファニーの手を離し、茶器の準備を始めた。ティファニーに背を向け、引き出しからなにかを取り出している。


「…」

「ママレードに、ブルーベリー。あっ、蜂蜜もあった」


明らかに強がりだ。

でも、リンジーの背中はそれ以外の会話を拒んでいる。


「今までのお礼だから、ティファニーが選んで。なんなら、全部出しちゃおうかな」

「…私が選んでいいの?」


こういったとき、いつものティファニーなら遠慮して、自分の意見は言わなかった。だから少しだけ驚いたように振り返ったあと、リンジーは頷いた。


「もちろん! 今日は、なんでもあり!」


それは口には出さないが、失恋パーティというものだろうか。

だから、ティファニーはあえてにこやかに笑った。


「じゃあ、蜂蜜が良いな。それとね、もう一つ」

「?」

「綺麗な花を見ながら、お茶を飲みたいな。今の時期ならやっぱり、薔薇かな」


季節ごとに開かれるお茶会は、花を愛でることを口実に開かれることもある。

実際、この学校の庭園や温室でも、お茶会が開かれていることが多い。


「…」


なんとも言えない顔のリンジーに、ティファニーは付け加えた。


「大事な友だちと、綺麗な薔薇を見ながらお茶会がしてみたいなぁ」


今日はなんでもありなんだよね?


ティファニーが言うと、リンジーは少し悔しそうだ。


「…なんでそんなに得意げなの…」

「早く行こ? なんなら、そのまま行っちゃう?」


モコモコの部屋着を着たリンジーの腕を引っ張ると、リンジーは焦ったように言った。


「ティファニー!」

「大丈夫! リンジーだったら部屋着姿でも、みんな、冬の妖精さんが現れたって思うから!!」

「思わないよ!? 分かった!行くから、ちょっと待って!」


◈◈◈◈◈

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