42,秋薔薇の君11 リンジー・コストナー
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その日は特に寒い朝だった。
ティファニーがリンジーの部屋に迎えに行くと、リンジーはモコモコの部屋着姿のままティファニーを自室に入れ言った。
「ありがとう、ティファニー。でも、もういいよ」
「リンジー! 諦めちゃだめだよ!」
「ううん。この寒さだもの。きっと、もう薔薇も萎れちゃったと思う」
リンジーが窓の外を見る。
ふぅっとため息まじりに吐いた息で、窓ガラスは白く曇った。
「…でも、」
おまじないをしても、必ず叶うわけではないし、おまじないをしなくても、叶う恋だってあるだろう。
でも、リンジーの目は少し赤く腫れていて、その寂しげな笑みでティファニーは悟ってしまった。
諦める気なんだ…。
リンジーの中で、秋薔薇についた朝露を見つけられるかどうかこそが、大事な告白への後押しだったのだろう。
はじめから、見つけられなかったらそこで思いを断つつもりだったのだ。
「…ふふっ」
「リンジー?」
「そんな顔、しないで」
リンジーはティファニーの手を握った。
「楽しかったの。寒いのは苦手だったけど、ティファニーと二人でわいわい騒ぎながら、綺麗な薔薇を探すのが、本当に楽しかった」
リンジーの手は冷たかった。
多分、昨日から寝ていないのだろう。
「私よりも、ティファニーの方が真剣に探してくれて。魔法で水をかけようとしたら、全力で止めてくれた」
「だって、リンジーに幸せになってほしかったから…」
そのためなら、何日だって朝露を探す。
「ティファニーがいてくれて、私は幸せだよ」
それは、透き通るような綺麗な笑みで、でも、ティファニーが見たかったリンジーの笑顔ではない。
「ねぇ、」
「さっ! 早朝お茶会しない? きょうは、取って置きのチョコレートも付けちゃう!!」
ティファニーの言葉を遮るように、リンジーが言った。
「それとも、クラッカーにいちごジャムの方がいいかな?」
リンジーは、ティファニーの手を離し、茶器の準備を始めた。ティファニーに背を向け、引き出しからなにかを取り出している。
「…」
「ママレードに、ブルーベリー。あっ、蜂蜜もあった」
明らかに強がりだ。
でも、リンジーの背中はそれ以外の会話を拒んでいる。
「今までのお礼だから、ティファニーが選んで。なんなら、全部出しちゃおうかな」
「…私が選んでいいの?」
こういったとき、いつものティファニーなら遠慮して、自分の意見は言わなかった。だから少しだけ驚いたように振り返ったあと、リンジーは頷いた。
「もちろん! 今日は、なんでもあり!」
それは口には出さないが、失恋パーティというものだろうか。
だから、ティファニーはあえてにこやかに笑った。
「じゃあ、蜂蜜が良いな。それとね、もう一つ」
「?」
「綺麗な花を見ながら、お茶を飲みたいな。今の時期ならやっぱり、薔薇かな」
季節ごとに開かれるお茶会は、花を愛でることを口実に開かれることもある。
実際、この学校の庭園や温室でも、お茶会が開かれていることが多い。
「…」
なんとも言えない顔のリンジーに、ティファニーは付け加えた。
「大事な友だちと、綺麗な薔薇を見ながらお茶会がしてみたいなぁ」
今日はなんでもありなんだよね?
ティファニーが言うと、リンジーは少し悔しそうだ。
「…なんでそんなに得意げなの…」
「早く行こ? なんなら、そのまま行っちゃう?」
モコモコの部屋着を着たリンジーの腕を引っ張ると、リンジーは焦ったように言った。
「ティファニー!」
「大丈夫! リンジーだったら部屋着姿でも、みんな、冬の妖精さんが現れたって思うから!!」
「思わないよ!? 分かった!行くから、ちょっと待って!」
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