41,秋薔薇の君10 ソフィアとビクター3
むかしむかし、人々を苦しめた魔王がいました。特別な力を持ったパトリシア様は騎士と共に魔王を倒しました。
二人は国を救った英雄となり、やがて国を治めることになりました。
語られた地域や年代によって少し違うところはあったりするものの、ざっと、『救国の乙女と騎士』はこんな物語だった。
ほとんどの国民は、作り話かなって思っている。
魔王も魔物もいない世界だし、英雄が突然王になっちゃうし。
王家の箔をつけるための創作物。
「……」
まさかのパトリシア様の子孫であるビクター様の口から、魔王はいない、発言が出るとは思わなかった。
…あと数ヵ月で魔王は復活するのに。
ここは、 さりげなく魔王はいると思うように話をしなければ!
そう心に決めた私よりも早く、ビクター様は言葉を続けた。
「魔王とは、魔物の王」
「そうですね…?」
「しかし、魔王の臣下の話は聞いたことがない。また、魔物もいない。痕跡すらない」
「…」
ここが乙女ゲームが下地だからなのから、バトル系のことはない。
ゲーム的にも、魔物は出てこなかった。
この世界の住人としても、魔物は竜と同じ、絵本の世界にしかいない。空想上の生き物。
「統べる臣下も民もいなければ、王とは呼べないと、俺は思う。だから、魔王は存在しない」
流石この国の王子様。考え方が違う。
でも、私は魔王がいるって知っている。
魔法学校に入学してから、ゲームと同じことがたくさん起きた。エリックも、「一言一句間違いなく合っていた」と、言ってくれたのだから、私の妄想ではないのだ。
「あの、お言葉ですが…」
「あぁ。王族の俺が言うのは、おかしいな」
ビクター様は言った。
「救国の乙女の話を否定するつもりはない。しかし、芝居に出てくるような魔王像は実際にいた者とは少し違うような気がする」
「でも、今、魔王は実在しないと仰っていたではありませんか」
「魔物の王は、な」
「…??」
魔物の王ではない魔王?
考え込む私を見て、ビクター様がくすりと笑った。
考えるのに夢中で悪役令嬢の皮が剥がれかけてた!
「よく分かりませんわ」
ここは素直に聞こう。
悪役令嬢ソフィアは難しい話は嫌い!
「…そうか。まぁ、俺が勝手に思っていただけだから、あまり気にしないでくれ。そろそろ行こう。この後は、前に行った宝飾品の店でいいだろうか?」
気になる!
けど、ソフィアの反応としては、ここは宝飾品に飛び付く一択。
あまり、魔王の話ばかりしていると、この前のティファニーちゃんの詩の時みたいに、失敗するかも。
「えぇ! 楽しみですわ!!」
ビクター様の考えは分からないけど、魔王様がいるのは変わりないのだからと、私は今の話を頭のすみに追いやった。




