40,秋薔薇の君9 ソフィアとビクター2
なぜかご機嫌で去っていく迷子を見送った。…つ、疲れた。なんか、とても頭を使った気がする…。
でも、悪役令嬢のイメージを保てたし、迷子には喜んでらえた…のかな。
手元の剣先咲きのオレンジの薔薇を見る。
「パトリシア」
「えっ?」
ビクター様が言った。
「その薔薇の品種だ。パトリシア妃をイメージして作られたらしい」
「まぁ、そうでしたの」
なんでオレンジなのだろう?
「パトリシア様は、オレンジの髪色でしたの?」
パトリシア様の髪色を私は知らない。…ゲームでちらっと出てきたときは、古さを表すためか、全体的にセピア色だった。
「…いや、そう言った記述はなかったはずだ。おそらく、この花を作った者のイメージだろう」
「勇敢なパトリシア様にはぴったりの色かもしれませんね」
魔王を倒して、人々を助けたパトリシア様は貴族女性の憧れの存在だ。
「そうだな」
ふと、ビクター様を見ていて思った。
ビクター様は、魔王のことをどう思っているんだろう?
あと半年も経たないうちに、彼は復活してしまう。
ゲーム通りに進めば、ビクター様はティファニーちゃんと共に戦うことになる。物語のパトリシア様と騎士のように。
「ビクター様は、魔王をどう思っていらっしゃいますか?」
唐突すぎたかな。
でも、ソフィアは気紛れな性格だと知っているから、あまり不自然ではないはず。
「魔王…?」
「えぇ。文化祭で、救国の乙女の物語のお芝居を見ましたの。そのときのパトリシア様役の生徒が倒した魔王は、牙のはえた恐ろしい魔物でした」
ビクター様も生徒会長として、文化祭でお芝居があったことは知っている。
「知り合いに、以前のお芝居では大きな竜の姿をしたとも聞きました。実際の魔王とは、どのような者だったのかと…」
パトリシア様の髪色すら記録に残っていないくらいだから、悪役魔王の情報はさらに少ない。
ただ、「人々を苦しめた魔物の王」くらいしか描かれていない。
ゲームでは人のかたちだったけど、ビクター様はどう思っているのかな。
私の質問に、ビクター様は考え込んだ。
人気ランキング不動の一位の美しい顔を少し歪ませて、答えを吟味している。
数十秒後、宝石のような赤い瞳がこちらを向いた。
思わずどきっとする、真剣な顔で彼は言った。
「俺は、魔王はいないと考えている」




