38,秋薔薇の君7 ソフィアと兄
「みんなティファニーちゃんの気を引くのを頑張ってる頃かなぁ」
私は悪役令嬢らしく、学校をさぼって公爵家に帰ってきていた。
ゲーム内で公爵の家が出てきたことはない。ここなら、うっかりネタバレとかしない安全地帯だ。秋薔薇の君編は、ソフィアの出番はなかったので、私はここに逃げ込むことにした。
「秋薔薇の君編…」
リンジーちゃんの恋物語。
なんだけど!
この女子生徒に流行ったおまじない、恋人や親族経由でほとんどの男子も知っているのだ。
だから、この時期に女の子からの「一緒に紅茶を飲みませんか?」というお誘いは、ほとんど告白したも同然。
ティファニーちゃんが朝露を探していると知って、攻略対象者たちは、ティファニーちゃんの想い人は誰かとそわそわする。
親友リンジーちゃんのために探しているだけだと知らず、朝露を探すティファニーちゃんの邪魔をして怒られたり、手伝うふりして相手を聞き出そうとしたり、はては、先に紅茶を飲もうと誘ってみたり。
攻略対象者たちによるティファニーちゃん攻略大作戦、が裏テーマだった。
「ふふっ。ちょっと見たかったなぁ」
いつもはクールなハーリィも、実験にしか興味がないクレイグも、他のメンバーも。みんなティファニーちゃんに振り回されて、楽しそうに笑っていた。
悪役は出てこない、平和なこのイベントが一番好きだったかもしれない。
「何を見たかったのかい?」
庭で薔薇の花を見ていると、なぜかお兄様がいた。
「お兄様…?」
服装からして、お城に行ってきたのは間違いない。でも、まだ昼間なのに…?
「かわいい妹が帰ってきていると聞いて、休みをとったんだよ」
「まぁ…」
思わず素が出そうになって、踏みとどまる。
「わたくし、ドレスを注文しようと思ってましたの。お兄様がいてくだされば、心強いですわ」
新しいドレスの注文。
それは、悪役令嬢ソフィアの大好物。
ゲームのイベントに必要なものだから、私も気兼ねなくおねだりできる。高級な布をたくさん使った特注のドレス。靴もアクセサリーも新しいものを。…イベントじゃなければ、こんな大きなお買い物できない…。
「ドレス。冬の舞踏会用かな?」
流石、察しのいいお兄様だ。
私は、うなずいた。
「えぇ」
冬の舞踏会。
それは、魔法学校で催されるイベント。
冬の長期休暇の前に行われるもので、全員参加が義務付けられている。
普通こういったものは、「パートナーがいなければ参加出来ない」というのがほとんどなんだけど、攻略対象者とティファニーちゃんのためのルールなのか、まさかの全員参加。
一応、この世界の建前としては、「生徒が早くに舞踏会に慣れるため」らしい。
婚約者がいる場合はもちろん婚約者がエスコートする。
「その顔はもうどんなドレスにするか、決まっているようだな」
もちろんです!
心のなかで叫んでから、私は令嬢の笑みを浮かべた。
「ビクター様の瞳のような、深紅のドレスにしようと思ってますわ」
ゲームで何度も見た!
特に、冬の舞踏会編は、一番大事なフラグが立つイベントだった。だから、ソフィアのドレスもデザイン画が描けるほど見た。
「うん。それがいい。もちろん今日は俺が一緒にいてあげる。けど、」
「けど?」
多分、私が口を出さなくても、このドレスのデザインは変わらない。だから、まさかお兄様が何か言ってくるとは思ってなかった。
「けど、お前の婚約者にも先に教えておくほうがいいんじゃないか?」
「…」
パートナーがいる場合、少し同じ色をつかった物を取り入れてお揃い感を出すこともある。
ビクター様とお揃い。
なかなかの強烈な一言だ。
あれ、ゲームではどうだったっけ?
ティファニーちゃんの白い清楚なドレスは思い出せるけど、ビクター様の正装姿は思い出せない…。
「お兄様…」
「なにかな?」
「素晴らしい考えですわ!」
私は悪役令嬢ソフィアらしく答えた。
うん。
生徒会長ビクター様はこの時期忙しくて会えないだろうし、どうせお兄様はビクター様の正装姿を見ることはない。
ここは、適当に話を合わせておこう!
悪役兄妹っぽく、他人の予定など考えないまま暴走してみる。
「わたくし、明日にでもビクター様に会いに行ってお話してみますわ。ビクター様とお揃いのものがほしいと!」
明日は休日。
でも、ビクター様は生徒会の仕事か公務があるだろう。だから、事前のお約束なしに行っても門前払いに決まってる。
あえて寝坊して遅い時間に行って、すれ違いを狙うのもありかなぁ。
ゲームのイベント以外で会わないようにと動く癖がついている。
折角提案してくれたお兄様には悪いけど、…そんな私にお兄様は優しい目を向けた。
「大丈夫だ。ソフィア」
「?」
「もうお前の婚約者には、話を通しておいたから!」
お兄様…?




