36,秋薔薇の君5 乙女たちのおまじない
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「ティファニー、ごめんね。こんなに毎日付き合わせて」
「全然! リンジーと一緒で私は楽しいよ! …って、ごめん。楽しんじゃ駄目だよね。早く見つけなくちゃ」
「ううん。私も。ティファニーと一緒にいられて楽しい」
リンジーは少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。
朝露探しは四日目に突入した。
花が増えるにつれ、おまじないの噂を聞き付けてやってくる女子生徒の数も増えてきた。それでも、十分な量の朝露は誰も見つけられてはいないようだ。
「…あれ、今、魔法の詠唱が聞こえなかった?」
ティファニーの聞き違いでなければ、それは水魔法の初級に習うものだった。
そっと、リンジーは目をそらした。
「多分、水をまいたんだと思う」
「朝の水やり? でも、庭師のおじいさんいないよね」
毎朝通っているので、庭師のおじいさんとも顔見知りになった。そこで、花の育て方も教えてもらっていたけど、今朝はもう帰ってしまったはずなのに、とティファニーがおじいさんをさがしてキョロキョロと園内をみまわした。
「水やりじゃなくて、その、朝露…」
「朝露?」
「そう。…魔法でわざと雨を降らして、薔薇の花に水をのせたんだと思う」
「…」
ティファニーは目を丸くした。
つまり、人工的に秋薔薇の上に滴をのせて、朝露として採取するつもりらしい。
「…それっていいの?」
内緒話のようにリンジーに顔を寄せ、小声で聞いた。なんとなく、他の人には聞かれてはいけない気がした。
リンジーも深刻そうな顔で声を潜めた。
「効果があるかはわからない。…でも、このままだと秋薔薇が咲き終わっちゃうから…」
いつの間にか、リンジーの片手には初級魔法の本があった。
ティファニーは、驚いてリンジーの手を握る。
「だ、大丈夫! 明日も来よう? リンジーが朝、起きられなかったら、私が探してあげるから!」
「ティファニー…」
今朝もまた朝露はなかった。
いつの間にか、秋の空気が濃くなり、ひんやりと肌寒い日も多くなってきた。秋薔薇の咲く時期はとても短い。
「諦めるのはまだ早いよ!」
おまじないだって、効果はあるかはわからない。でも、人工的に作り出したものよりも良いはずだ。リンジーには後悔しない道を選んでほしい。
「でも…ティファニーは探してないのに…」
「いいの! リンジーがいてくれたから、私はやってこれたんだから」
入学式だったあの日、同じクラスの人に挨拶をして無視をされた。
それで戸惑っていると、放課後リンジーがそっと、理由を教えてくれた。
リンジーはこれからも貴族として生きていかなければならないのに、ティファニーと友達になってくれたのだから。
「あのときのお返しだと思って?」
「私、そんなつもりじゃ」
「じゃあ、私もそんなつもりじゃないよ」
「っもう、ティファニーったら。意味がわかんない」
「私も」
二人は顔を見合わせると笑った。
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