34,秋薔薇の君3 ハーリィ・フュルト
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「…あー。ティファニー、ちょっといいか?」
授業も終わり寮への帰り道、ティファニーはハーリィに呼び止められた。
「どうしたの?」
期末試験もまだ先のこと。
授業で何か分からないことでもあったのかなと、ティファニーが呼ばれるままに近付くと、ハーリィはなぜか困ったような顔で空を仰いだ。
「その、な…」
「ハーリィ?」
ハーリィは背が高い。ティファニーの頭ひとつ分以上あるので、上を見られると、全く表情が分からなくなってしまう。
着崩した制服から、外国の物のような首飾りが見えた。腕にもいくつか装飾品をつけているが、全てが調和がとれていてハーリィに似合っている。
「ハーリィはおしゃれだね」
「んあ? こんなんで良ければいくらでも、…じゃなくて」
やっとこっちを向いてくれた。
大丈夫。
ティファニー先生に話してみなさい!
そんな心持ちで微笑むと、ハーリィは大きくため息をついた。
「…その、朝に庭園に行ったって聞いたけど」
「庭園に? うん。行ったよ」
まだ勉強の話はしたくないらしい。
ティファニーは、ハーリィの雑談に付き合うことにした。
「もう三日目かな? 朝の薔薇は香りが濃くて、とっても素敵な気持ちになれるよ」
本当の目的は、親友リンジーの恋のおまじないの材料探しだ。秋薔薇についた朝露をシロップ代わりに紅茶に入れると、飲んだ二人は幸せになれるというものらしい。
でもそれは、リンジーの秘密の恋。
ティファニーが勝手に、他の誰かに話すわけにはいかないのだ。
「三日も…」
なぜか、ハーリィは絶望した顔になった。
「う、うん。明日も行くつもりだけど…」
この三日間、薔薇に朝露がおりていなかった。リンジーの落胆はすさまじく、しまいには、
「秋薔薇様。私の恋は諦めろということですか…」
と、薔薇に話しかけるまでになってしまったので、頑張ってティファニーがはげましたのだ。
明日は、リンジーのお部屋まで迎えにいこう。
早朝ならば、あの方もいないので、寮内を歩いても見つからないはず。
念のため、迂回ルートや隠れる場所も調査済みだった。
「明日も…」
「うん!」
意気込んでティファニーが答えると、ハーリィは何かを決意したように頷いた。
「ティファニーは、紅茶、好きか?」
「紅茶? …普通かな」
「普通かよ…」
一瞬でがっかりされてしまった。
慌ててティファニーは言い分けをする。
「だって! ここの生徒の皆さんの紅茶に対する思いが強すぎて!! 私は色がついていれば、それだけでおいしく感じちゃうから…」
茶葉、お湯の温度に秒単位の時間調整、食器の扱い方。
まさかお茶を入れるという授業があるとは、思わなかった。
「色がついてればって、またおおざっぱだな」
ハーリィがおかしそうに笑った。やっと笑顔を見せてくれ安心したティファニーだったが、内容に怒った。
「あのね、庶民は何度も茶葉を使うんだよ!」
「それと舌の良し悪しは違うだろ」
「…そう、かも。淹れるのも下手だし…」
「あー。まぁ、いいや。紅茶が飲めればそれで」
「…」
ハーリィは腕を組んで言った。
「ちょうど船が帰ってきて、外国産の珍しい茶葉が手に入ったんだ。少し分けて…いや、俺が淹れてやる」
ハーリィは商人の息子だ。
世界中をみてきたハーリィが珍しいというのだから、本当に珍しいものなのだろう。
「おおざっぱな舌の私にいいの?」
「…根に持ったのか」
「冗談だよ。ありがとう」
友人が自分のために紅茶を淹れてくれる。それだけでも、幸せなことだ。
だから、自分も出来ることでお返ししよう。
「それで、今日の授業のどこが分からなかったの?」
「は?」
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